5. 営業デジタルシフトで直面する課題の解決例

営業デジタルシフトのメソッド

営業デジタルシフトで直面する課題の解決例

当たり前のことではありますが、営業デジタルシフトは導入することがゴールではありません。新たな営業活動の進め方を浸透させ、狙い通りの成果を得られるよう継続的に取り組むことが求められますが、多くの場合は様々な課題に直面することになります。

本記事では、営業デジタルシフトに取り組む企業でしばしば聞かれる課題を6つの観点から取り上げ、それらの解決策の例を解説していきます。

目次

  • ⅠⅠ営業デジタルシフトで直面する代表的な6つの課題
    (1)組織間の連携
    (2)人材マネジメント
    (3)リード受け渡しプロセス
    (4)評価指標
    (5)目標設定
    (6)根本原因:組織カルチャー
    Ⅱ実務課題の解決策の例
    (1)組織間連携の不満の解消
    (2)人材マネジメントの変化への対応
    (3)リード受け渡しプロセスの安定化
    (4)適切な評価指標
    (5)連携を意識した目標設定
    Ⅲ組織カルチャーの課題解決に向けて

 

Ⅰ営業デジタルシフトで直面する代表的な6つの課題

営業デジタルシフトに取り組む過程で生まれる課題にはどのようなものがあるでしょうか。まず実務的な課題を5点挙げた上で、もう1点、それらの根本原因となる課題を紹介します。

 

(1)組織間の連携

営業デジタルシフトでは、フィールドセールス、インサイドセールス、マーケティングでの連携が問われると同時に、役割分担の面で課題が生じる場面が多くあります。

特に、多くの企業にとって新たな職種であり組織でもあるインサイドセールスをどのように配置するかによって、それぞれ異なる課題が生じる傾向があります。

まず、営業部門にインサイドセールスを配置した場合、フィールドセールスのアシスタントのような役割であるように部門内外から誤解されやすくなり、インサイドセールス単独の成果が見えにくくなってしまいます。

一方で、マーケティング部門にインサイドセールスを配置した場合、フィールドセールスは別組織となるので、受け渡したリードを確実にフォローしてもらう体制を敷くのが難しくなります。

 

(2)人材マネジメント

営業デジタルシフトによって採用される新たな営業プロセスに応じたマネジメントに変化させることも大きな課題です。具体的には、それ以前は存在しなかったインサイドセールスのマネジメントや、個人中心からチームの連携を重視するマネジメントへの移行が課題となります。

 

(3)リード受け渡しプロセス

営業デジタルシフトでは営業プロセスを分業することが求められますが、部署をまたぎながら、質の高いリードを安定的に引き渡すプロセスを構築することは難しい課題となります。

 

(4)評価指標

マーケティングやインサイドセールスのKPI はリード数やパイプライン数など量的な視点から設定される場合が多くみられます。

しかし、量の指標を重視しすぎると、同じリードに何度も電話をかけたり、無理に商談を設定したりと強引な行動を取りがちになり、リードの質が低下してしまうという弊害が生じることがあります。

結果としてリードを受け取る部署や、顧客からの信頼が低下する恐れがあります。

 

(5)目標設定

従来の営業手法では、部署ごとの利害に基づいてバラバラの目標設定がなされていても、そこまで大きな問題にならずに済んでいました。

しかし、営業デジタルシフトによって各部署が営業プロセス上で一連の業務を共同で担うことになると、行動面での連携がうまくとれないなど、目標設定の不統一が課題として顕在化してしまうと考えられます。

 

(6)根本原因:組織カルチャー

以上5点の課題の根本原因であり、営業デジタルシフトの推進に最も影響を与えるのが、組織カルチャーの課題です。

たとえば、新たな営業プロセスやデータ管理ツールを導入しても部署内に浸透せず、使う人や実行する人が限られてしまうケースが多くみられます。こうした背景には、前例踏襲をよしとする保守的な姿勢や、成果を急ぎ中長期な視点は後回しにしがちな風土がある場合が非常に多くあります。

営業活動に従事してきた人たちの一部は、営業デジタルシフトによって新設されるインサイドセールスの意義や、業務プロセス刷新の必要性に対し、懐疑的なまなざしを向けることもあるでしょう。そういった人々や部署を営業デジタルシフトの取り組みに巻き込んでいくには、理解に向けた努力や工夫が必要です。

 

Ⅱ実務課題の解決策の例

これから実務的課題の解決策を、次の項目で組織カルチャーの課題の解決策をそれぞれ解説していきます。

ただし、実際には営業デジタルシフトに取り組む企業の多くが、こうした課題に直面して試行錯誤しながら解決を図っています。解決策は、企業の数だけあるといっても過言ではないでしょう。これらはあくまでも例として捉えて、課題解決のヒントにしてください。

 

(1)組織間連携の不満の解消

まず、インサイドセールスがフィールドセールスのアシスタントと化してしまう課題は、「営業はクロージングする立場の人間が強い」という認識によって生まれます。

一方、マーケティング部門にインサイドセールスを配置するパターンでは、フィールドセールスの間でインサイドセールスは営業とは別の活動だと考える従来の認識が更新されにくいことが、リードのフォロー体制を築く障害になります。

前者はインサイドセールスが営業活動に欠かせない存在だと理解してもらうこと、後者はリードのフォローを営業活動に組み入れてもらうことが課題解決のゴールとなるでしょう。

そのためには、インサイドセールスの活動が起点となって成約に至った事例を積極的に紹介するなどの取組によって、フィールドセールスの認識の変革を図ることが有効です。

 

(2)人材マネジメントの変化への対応

まず、インサイドセールスのマネジメント人材にはインサイドセールスでの実務経験は必須ではなく、マネジャーとしての資質を持ち合わせていることのほうが重要です。ただし、これまで以上に他部署との連携や、めまぐるしく変化するリードへの臨機応変な対応力が求められるのは特筆すべき点でしょう。

また、個人中心からチームの連携を重視するマネジメントへの移行にあたっては、新たな業務や組織を定着させる力を擁しているかどうかが鍵となります。具体的には、新たな取組に懐疑的な自部署・他部署の人間と粘り強く交渉して、経営層からも理解を勝ち得る力強さが求められます。

 

(3)リード受け渡しプロセスの安定化

部署をまたぐ形で質の高いリードを安定的に引き渡す仕組みを作るには、多くの企業で設定されている引き渡し時の基準に加えて、部署内でのナーチャリングプロセスの評価項目を精緻化・明確化しておく必要があります。

一般的に、部署内でのリードのナーチャリング状況は担当者の判断に任される場合が多いのですが、業務で生じるアクションやリードから入手する情報を一度最小単位にまで分解し、商材や組織の特性に合わせて適切な粒度で評価項目として定義化することで、担当者ごとのバラつきを押さえることができます。

たとえば、BANT(Budget(予算〉、Authority〈決裁権〉、Needs〈ニーズ〉、Timeframe〈購入時期〉)の“B”(予算)に基づきリードの購入意欲を探る場合、購入に充てる予算だけを評価項目としがちです。

しかし、企業や事業部、チーム全体にかける予算や、予算に対する商材価格の比率、前年度の予算と実際の収支、予算や決算のスケジュールなどの詳細な情報を評価項目に加えることで、個人の感覚に頼らずに、購入の可能性やその時期を予測する精度を向上させることができるでしょう。

 

(4)適切な評価指標

各部署のKPIが量的な視点にのみ基づいて設定されることの弊害を解消するためには、アジャイル型組織を設置して定性的な視点を取り入れたKPIを模索することが望ましいです。

アジャイルとはもともとソフトウェア開発から生まれた考え方で、小規模な組織で短期間にPDCAを回しながら、徐々に理想とするゴールに近づけていく方法のことです。

アジャイル型組織は関係するマーケティング、インサイドセールス、フィールドセールスなどから少数の人員を出し合って部門横断型にすることで、各機能の役割分担を考慮した、最終的な売上などの目標達成につながるKPIの検討が可能になります。

小規模な組織で適切なKPI設定が見つかったら、それを全体展開していくとよいでしょう。

 

(5)連携を意識した目標設定

営業デジタルシフトに取り組んでいくと、それぞれの部署で完結した目標設定をすることの課題が顕在化しやすくなります。逆に考えれば、部署同士の連携を意識した目標設定に転換するチャンスだといえるでしょう。

具体的には、営業利益を上げて事業貢献することを共通の目標と考えて、フィールドセールスだけでなくインサイドセールスやマーケティングも、売上を各部署が握る最終的な目標(もしくはその一部)として設定することで、連携を意識した目標設定が可能になります。

 

Ⅲ組織カルチャーの課題解決に向けて

本記事の最後では、様々な実務的な課題の根本原因だと考えられる組織カルチャーの課題解決、すなわち組織カルチャーとして営業デジタルシフトを定着させるにはどうすればよいのか、解決策の方向性をお示ししたいと思います。

まず大きな枠組みとしては、新しい業務プロセスやツール活用のルールを、関連する部署間で合意した形で制定し、それらを業績評価にも適切に組み込むことが重要です。

しかし、従来の保守的な組織カルチャーを変革するには制度を整えただけでは不十分で、現場の社員の意識改革と主体的な取組が欠かせません。

意識改革については、デジタルを活用した部署横断的な営業プロセスが軌道に乗れば、商談の再現性や拡張性が高まり、長期的な視点では大きなメリットが得られる公算が大きいのだということを、推進に関わるマネジャーなどが中心となり、粘り強く説得していくことが求められます。

主体的な取組を実現させるには、折に触れて自分の仕事の意義がどこにあるのか明確化させる機会を作ることで、自発的な行動を促すことができます。

変革の意義を社員それぞれが理解して、新たな業務プロセスの実践を可能にする仕組みが整備されていること。この2点が、営業デジタルシフトを組織カルチャーとして定着させるために不可欠だといえるでしょう。

営業デジタルシフトのメソッド
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