4. 部門間アライメント―営業デジタルシフトに対応した事業戦略のポイント
営業デジタルシフトのメソッド
部門間アライメント―営業デジタルシフトに対応した事業戦略のポイント
営業デジタルシフトの実践の成否は、適切な事業戦略の策定によって左右されるといっても過言ではありません。経営方針と日々の営業活動を結びつけ、施策の位置づけと部門間連携のあり方を明確にするには、どのような事業戦略を策定すればよいのでしょうか。本記事では、代表的な策定モデルに基づいて解説していきます。
その際重要なのが、部門間のアライメント(alignment)と呼ばれる部門横断的な協力体制を構築することです。マーケティングと営業のつながりが織り込まれた事業戦略はどうすれば実現できるのか、ステップごとに見ていきましょう。
Ⅰ営業デジタルシフトにおけるアライメントの重要性
営業デジタルシフトではマーケティング、インサイドセールス、フィールドセールスのアライメント(密接な連携)が営業デジタルシフトの成否を分ける重要なポイントです。そこで本記事では、営業戦略をそれ単独で策定するのではなく、事業戦略から営業戦略までを一連のプロセスの中で策定する方法を解説していきます。
営業デジタルシフトの事業戦略で部門間のアライメントが重要な理由としては、従来の個別に策定した戦略はそれぞれの部門で部分最適化された目標や戦略になりやすく、連携した際の全体の視点が欠けてしまいがちだという点が挙げられます。
たとえば、営業部門がマーケティングの活動とは無関係に、自部門内で完結する目標を設定してしまうケースがよく見られます。特に日本では営業の力が強い企業が多く、日々の活動に加えて戦略でも営業が主体でマーケティングは従属的な立場に置かれる事例が目立ちます。しかし、営業デジタルシフトによって営業活動の分業が始まれば、互いの業務を理解してそれぞれの機能が対等な関係で活動を行う必要性が生まれます。
そこで、上位層だけでなく現場の担当者のレベルでも部門間でオープンに議論できる関係を構築するため、戦略策定の段階からアライメントを目指すことが重要になるのです。
本記事で扱う事業戦略の策定モデルは、関連部門が共同で大元となる事業戦略を策定し、それに基づき機能別の戦略を検討していくものです。具体的には、営業企画や営業部門、インサイドセールス部門、マーケティング部門の責任者が参加するほか、企業によっては製品開発部門の責任者なども加わる可能性があります。
事業戦略策定にあたっては、立場の異なる人びとが多く参画することから、ステップどおりに検討を進めることよりも、合意が得られるまで何度も話し合ったり、新たな関係者を巻き込んだ会議を設定したりと、必要に応じて自律的に議論を行うことが重要です。
Ⅱ事業戦略策定の前提情報
まずは事業戦略の策定にあたって前提となる情報を整理しておきます。一般的に事業戦略はある事業領域の業績を向上させるための方策や、社内外で利用できる資源の配分をまとめたものであり、主に以下の項目が含まれます。
・ミッション
・事業を通じて顧客へ提供する価値
・事業の目的
・売上、粗利益、事業損益、マーケットシェアなどの事業達成目標数・値の年度別推移
・STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)分析
・SWOTなどの自社分析
・製品・サービスの開発、製造にかかわる資源配分
・製品・サービス開発、製造、デリバリー計画(物の場合は流通計画)
・事業にかかわる複数の組織の年度別人員構成
さらに、一連の戦略策定プロセスに含まれる営業計画やマーケティング計画には、以下のような項目が含まれます。
■営業計画
〔販売店モデルの場合〕
・販社計画
・販社ごとのリベート施策と担当配置
・目標値
〔直販モデルの場合〕
・人員計画と各担当
・部署の目標値
〔モデル共通〕
・インサイドセールスとフィールドセールスの役割ごとの、人員計画、ゴール、KPI
■マーケティング計画
・マーケティング投資計画
・ブランド、製品、サービス認知施策
・デマンドジェネレーション施策の設定
(リードジェネレーション、リードナーチャリング、リードクオリフィケーション)
加えて、事業戦略を策定する以前に次年度の経営戦略は確定している状況を想定しています。そこで決定されるKGI(Key Goal Indicator;重要目標達成指標。ビジネスの最終目標を指標化したもの)を踏まえて、事業戦略は策定されることになります。
そのほか、事業戦略策定チームの立ち上げや、事業戦略の策定計画(これから解説する各ステップの進め方やスケジュールなど)の検討も済ませておく必要があります。
Ⅲ事業戦略策定の4ステップ
事業戦略の具体的なプロセスを4つのステップに分けて追っていきましょう。
ステップ1 事業戦略の基礎情報整理
暫定版の顧客セグメンテーションの検討を中心に、市場分析、直近のマーケティング戦略の選択、オポチュニティの決定、販売チャネルの優先順位を検討するステップです。営業企画、営業、マーケティング、インサイドセールスなどの責任者が関与します。
(1)顧客セグメンテーション(暫定版)の検討
市場の競争環境分析の結果を活用しながら市場をセグメンテーションし、それぞれのセグメントで想定される売上を検討します。顧客セグメンテーションについては別記事(3)をご覧ください。
(2)直近のマーケティング戦略の選択
マーケティング施策の効果を高めるためには、ターゲットを明確に設定して事業戦略に沿ったコミュニケーションを実施することが重要です。しかし、コンテンツ制作など施策の準備には時間がかかるため、戦略の完成を待っていては間に合わない可能性があります。
そこで、暫定版でも顧客のセグメンテーションが決定したタイミングで、直近の、たとえば次年度の第1四半期などの単位で、ほかより先行してマーケティング戦略を検討しておくことが必要になります。
(3)オポチュニティの決定
仮に定めた顧客セグメンテーションに対して、自社の事業のどこにオポチュニティ(商機をもたらすポイント)があるのかを判断していきます。検討にあたっては、以下の4点に着目して整理するとよいでしょう。
・作成した顧客セグメンテーション(暫定版)のデータ
・販売チャネルごとの過去実績
・近年の市場トレンドのデータ
・各種KPIやKGIの達成状況
(4)販売チャネルの優先順位づけ
フィールドセールスによる直販、インサイドセールス、オンラインでの販売など、複数の販売チャネルを持つ場合にそれぞれの優先度やバランスを決定します。
ステップ1での決定は、ステップ2以降の事業戦略の精緻化や各部門の実行計画など、事業戦略全体を方向づけるものとなります。最終的にすべての部門間で整合性をとれるよう、営業以外の視点からも十分に議論して、互いの理解を深めることが重要です。
付記すると、事業全体の予算と、顧客セグメンテーションに基づいてボトムアップで積み上げた予算とのギャップをいかに埋めていくかについて、ステップ1~3の間は常に検討することが必要になります。
ステップ2 顧客セグメンテーションと部門間でのアライメント
暫定版だった顧客のセグメンテーションを確定させ、関連する部門間のアライメントを図りながら事業戦略の各項目を調整するステップです。引き続き、営業企画、営業、マーケティング、インサイドセールスなどの責任者が関与します。
(1)顧客セグメンテーションの確定
事業全体の予算達成が可能な顧客セグメンテーションを確定させます。最終的にはそれぞれの顧客がどのセグメントに属していて、どのチャネルからどの商材を売っていくのかを明記した顧客リストを作成します。
(2)関連部門間でのアライメント
営業やマーケティングが互いの認識をすり合わせて、合意形成を図ることが最重要です。次のステップ3では、各部門が確定した顧客セグメンテーションに基づいてより具体的な実行計画を立てる作業に入るため、それぞれのセグメンテーションへのアプローチの方向性が一致しているかを前もって確認し、すり合わせた方向で検討を進めることを合意しておくことが必須となります。
事業戦略の策定全体を見渡しても難度が高い工程となるため、関係者での会議を重ねて合意形成を図ってください。
ステップ3 実行計画の策定
部門ごとの実行計画を策定していくステップです。主に各部門の部長クラスが主導します。実際にはマーケティング部門などでも計画は策定されますが、ここでは営業部門に限定して解説していきます。
(1)営業部単位での実行計画の策定
部門間で合意した事業戦略を、部単位の実行計画に落とし込んでいく作業を行います。実行計画には予算編成の立案やKPI の設定、スケジュールの設計などが含まれます。
各部への予算配分は、リストアップされた顧客の担当に応じて決めるのが原則です。ステップ1でも言及したとおり、ボトムアップで積み上げて算出した予算と実際に割り当てられた予算にギャップがあれば、それを埋める取り組みも検討する必要があります。
(2)計画の練り上げ
ワークショップを実施するなどして、計画内容について部門内だけでなく事業戦略策定に参画している各部門の責任者とも合意形成を行います。ワークショップは単なる報告会ではなく、参加者の自律性を重視して自由な議論によって懸念点の解消を目指す場として活用することが望ましいです。
(3)マーケティング計画との連動確認
マーケティング部門の実行計画が、営業部門の実行計画とうまく連動しているか確認する作業を行います。時期ごとのマーケティング施策のターゲットを明確化し、その施策によりどのようなリードを獲得するのかを、マーケティング部門と営業部門とで合意することが重要です。
(4)課・担当者単位への落とし込み
練り上げた営業部単位での実行計画をさらに細分化し、各部に紐づく課の実行計画や担当者の行動計画・目標に落とし込みます。当然ながら、個人の行動計画や目標まで、マーケティングの実行計画と連動した内容になるよう意識することが重要です。
ステップ4 事業戦略の経営視点でのレビュー
各ステップを経て策定した事業戦略を、経営層に提示し承認を得るステップです。
予算目標やKGI に関するエグゼクティブサマリー(事業計画書の概要を示したレポート)を筆頭に、ヒト・モノ・カネに関する投資と人員計画、営業プロセス上で実行される主要な戦略、関連する部門間でのアライメントの状況などを経営層に説明します。
経営層からのレビューを受けたら、結果に基づき戦略の修正やマーケティングと営業との間で実行計画の最終調整を図り、事業戦略策定は完了となります。
Ⅲ実効性のある事業戦略策定のために
本章で解説した事業戦略の策定モデルは、組織や事業の規模によって必要な時間は異なりますが、大まかな流れはどの企業でも応用可能だと考えられます。
営業デジタルシフトの要となるプロセスセリング(営業活動の分業と標準化)を機能させるには、部門間のアライメントを軸とした戦略策定が欠かせません。加えてプロセスセリングの実践によってデータを蓄積する環境が整備されて、部門間共通のデータベースが構築されれば、事業戦略の有効性はより高まるでしょう。
部門間アライメントを要とする営業デジタルシフトに適した事業戦略は、各ステップを形式的になぞるだけでは実効性が薄くなってしまいがちです。本記事ではマーケティング、インサイドセールス、フィールドセールスの三者を関係者として想定していますが、実際にはそれぞれの部門内にも複雑な役割分担があり、対立はより重層的になるでしょう。企業によっては製造や開発など、さらに多くの部門が事業戦略に関わる場合も考えられます。それぞれの企業の組織体制や状況に合わせて、自律的に検討と議論を進めることが求められます。
最後に、策定した戦略を実行する段階では、各部門の活動を有機的に機能させるためのオーケストレーションも重要となります。各自が自分の役割を果たしつつ、チームや部署や他の部門との協働を意識して、戦略の実効性を高めていってください。
営業デジタルシフトのメソッド |
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1.「営業デジタルシフト」がもたらす新たな営業の形とは? |
2. 営業が「デジタルシフト」すべき理由とは? |
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