2. 営業が「デジタルシフト」すべき理由とは?

営業デジタルシフトのメソッド

営業が「デジタルシフト」すべき理由とは/商材・顧客の変化にあわせた営業活動

営業デジタルシフトは、営業のデジタライゼーションやDXを行うための営業の在り方や仕組みを定義して、体制構築および事業戦略・計画を立案・実施する取組であり、2000年代以降拡大傾向にあります。その動きは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行によってますます加速しようとしています。

別記事(1)で営業デジタルシフトによって(ア)コストの低減、(イ)社内分業と標準化、(ウ)顧客活動のデータ活用が実現するto-be像を描けると解説を行いました。

本記事では、そうしたto-be像の実現に向けて、営業活動をどのように変化させる必要があるのか、具体的に解説していきます。

 

Ⅰ営業デジタルシフトの4つのキーワード

初めに、営業デジタルシフトによって営業活動にどのような変化があるのか、4つのキーワードからみていきましょう。

 

(1)分業

営業デジタルシフトによって、これまで一人の担当で担ってきた営業プロセスを分割して複数人ないし複数の部門にまたがって分業することになります。

分業によって、一方では個別の案件に深く入り込んで確実なクロージングを進めつつ、もう一方では新規案件の生成(ナーチャリング)を行うなど、異なる段階の営業活動に注力できるようになります。

結果として、それぞれの専門性が磨かれるのは大きな利点です。また、体制を独立させることで、これまでどうしても安定的なリソース確保が難しかった新規開拓にも注力できるようになり、より安定して案件が創出できると期待できます。

 

(2)標準化

営業デジタルシフトは「仕組み化」を重視する考え方です。トップセールスが暗黙知的に身につけていたノウハウを、誰でもが活用できるような「システム」に落とし込み再現性を高めることを目指します。

営業にまつわる技術を可視化して仕組みに取り込むことで、誰でも一定以上の成果が上げられ、組織として安定的な数字を生み続けることが可能になるでしょう。

さらに、これまで営業個人に属していた顧客情報を組織で共有することにより、異動や退職といった人材の流動に対してより柔軟に対応できるようになることも重要です。

 

(3)プロセスを俯瞰したマネジメントへの転換

従来の営業のマネジメントは案件ベースで進められるのが一般的です。この場合、目標達成において必要な見込み顧客が十分確保できているのか、そのための活動が十分できているのかなど、案件になるまでの途中のプロセスを評価する仕組みがありませんでした。

営業デジタルシフトでは分業を推進すると同時に、途中のプロセスを評価する仕組みをつくることを重視します。具体的には、フェーズごとにKPI やKAI、理想のCVR(Conversion Rate: 前フェーズから次フェーズにリードを進められる割合のことを指す)を設定して、目標指標と実績を対照しながらマネジメントを行います。その結果、業務の改善ポイントをプロセスごとに詳細に分析できるようになります。

 

(4)顧客プロファイルに基づく提案活動

営業デジタルシフトでは、案件や顧客にまつわるデータを活用することで、より精度の高い営業活動や、適切なタイミングでの顧客アプローチが可能になります。

近年、多くの顧客は自らの検討段階にあった情報提供を営業に求めるようになっています。一方、営業側も見込度合の高い顧客に優先的にアプローチして効率よく受注を獲得したいと考えているでしょう。

こうしたニーズに対しては、マーケティング活動で得られた顧客のデータから現在の検討段階を推測したり、過去にヒアリングできている検討見込時期などの情報を活用したりすることで、応えていくことができます。

営業活動においてこれまでは可視化されてこなかった(もしくは共有されてこなかった)さまざまな情報を集約していけるようになれば、データに基づきより効率的な戦略を打ち出すことが可能になるはずです。

 

Ⅱ具体的に求められる取組

これまでみてきたような営業デジタルシフトによる変化を実現するため、どのような取組が必要になるでしょうか。より具体的にみていきましょう。

 

(1)役割分担の明確化

営業を組織横断的に分業していく上では、全体の営業戦略や営業モデルに合わせてインサイドセールスやフィールドセールスの役割を適切に設定することが重要です。同時に、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールスそれぞれが全体目標に対して最適な役割を果たせるよう、役割分担を明確にする必要があります。

役割分担にあたっては、「全体の営業戦略の中で、何の役割を担当し、何の達成に責任を持つのか」を整理することになります。なお、戦略別のマーケティング、インサイドセールス、フィールドセールスの詳細な役割分担例は拙著『実践営業デジタルシフト』をご参照ください。

 

(2)顧客情報・案件情報に関するものさしの共通化

役割分担に加えて、案件(リード)の状態について営業組織全体で共通のものさしをつくる必要があります。その目的は、大きく3点あります。

目的① 関係者間でリードの状態について共通認識を持つため。

営業デジタルシフトによって、これまで個人的に実施してきた見込案件へのアプローチを組織的に進めることになるため、見込案件の成熟度などについて関係者間で共通の認識を持つことが不可欠となります。

目的② 責任部門を明確化するため。

組織的に案件管理を行うため、案件の状態に応じて、誰がどのようなアプローチを行うか、どんなステータスまで育成するか、もしくは前段階に戻して管理をするかなどを判断することになります。各段階の責任部門を明確化するにも、案件管理の規準を共通化する必要があります。

目的③ データを分析しやすくするため。

共通の基準や管理項目を定めることでデータを比較分析しやすくなり、有意なデータとして活用できるようになります。

 

(3)SFAの活用

営業デジタルシフトを進めるには、情報を組織的に使えるようにデータ共有基盤の整備は必要不可欠です。そこで活用したいのが、いわゆるSFA(Sales Force Automation)と呼ばれる営業支援管理システムです。SFAの基本的な機能には以下のようなものがあります。

・顧客プロファイル管理(企業の基本情報や連絡先一覧等)

・顧客への行動履歴管理(誰に、誰が、いつ、どのようなアクションをとったか)

・顧客への提案履歴管理(どんな提案を実施して、どんな結果だったか)

・顧客に関するTo Do管理(次回、誰がどんなアクションを行うか)

SFAを活用することで得られるメリットは大きく3つあります。1つめは、顧客情報や案件情報のスムーズな共有・連携が可能になる点です。2つめは、データに基づくマネジメントが可能になる点です。3つめは、データベース化によって営業活動の精緻な分析が可能となる点です。

各自のアクションやそこで得た情報をSFA に蓄積していくことで、顧客や案件の情報をスムーズに関係者間で連携できるようになります。日々の業務を支援するツールとしてSFAの活用が進めば、現場担当にとってもSFAへのデータ入力負荷は軽減していくでしょう。

 

Ⅲ代表的な営業モデル

営業デジタルシフトにあたっては、それぞれの企業の条件にあった営業戦略を立案して、その戦略に沿ったかたちでこれまで述べてきたような取組を進めていくことが重要です。

目指すゴールや顧客層、優先すべき市場によって取るべき営業戦略は異なります。本記事では、その中でも代表的な営業モデルを3つ紹介します。

 

(1)ABM(Account Based Marketing)型

ターゲットをアカウント(=企業)単位として、企業ごとに最適な施策を実行し、中長期的な関係性を維持発展させ、ターゲット企業内でのインナーシェアの最大化を目指す営業モデルです。1社当たりに割く営業工数が最も多いモデルといえます。

 

(2)テリトリー型

ターゲットをアカウント群(=企業群)で区分し、ターゲットアカウント群に最も効率的にアプローチできる注力ソリューションなどの戦略を定め、中~短期的な関係性の構築の中で、市場シェアの最大化を目指す営業モデルです。

 

(3)カバレッジ型

顧客ごとに営業を配置せず、マーケティング活動(テレマーケティングを含む)により顧客にアプローチし、特定の商材のデマンドジェネレーション(案件創出)を通じて、当該ソリューションの市場シェア拡大を目指すモデルです。1社当たりに割く営業工数は最も少なくなります。

 

Ⅳ戦略策定のための顧客セグメンテーション

どの営業戦略を採用するか検討するには、自分たちの企業が持つ条件を整理する必要があります。特に重要な条件がターゲットとする顧客層の特徴です。営業モデルの詳細な選び方は別記事(4)で紹介するため、ここでは最重要となる顧客セグメンテーションの概要を解説します。

顧客セグメンテーションとは、自社商材を売り込む対象の姿をある程度具象化した状態にするため、広大な市場を売上高等の特定の切り口で「群(セグメント)」に細分化して、セグメントごとに分析を行う手法のことです。

手順としては、市場を分析するセグメントへ細分化して、それぞれのセグメントで見込まれる売上のポテンシャルを算出し、ポテンシャルの大小に応じて優先順位をつけていきます。

こうした手順を踏むことで、どのような企業をターゲットとしてどのようにアプローチするのかが明確になるほか、取るべき営業モデルを決定するにあたって重要な判断基準となります。

本記事では、営業デジタルシフトによって営業活動をどのように変化させるのか、全般的な取組の解説から始めて、具体的な営業戦略の検討にまで踏み込んできました。より実務に近い内容は別記事(3)(4)(5)で展開していきますが、本記事で述べた内容を基本として押さえた上で、実践していってください。

営業デジタルシフトのメソッド
1.「営業デジタルシフト」がもたらす新たな営業の形とは?
2. 営業が「デジタルシフト」すべき理由とは?
3. 営業デジタルシフト推進に最適な営業モデルとは?
4. 部門間アライメント―営業デジタルシフトに対応した事業戦略のポイント
5. 営業デジタルシフトで直面する課題の解決例
インサイドセールスのメソッド
1. インサイドセールスとは
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4. インサイドセールスのアウトソーシング業者選びのポイント