1. 営業デジタルシフトがもたらす新たな営業の形とは?

営業デジタルシフトのメソッド

1. 営業デジタルシフトがもたらす新たな営業の形とは?

2020年から続いている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行は、私たちの社会と暮らしに様々な面で影響を与えています。ビジネスにおいては、出張の取りやめやテレワークの広まりなど、働き方に大きな変化が生じています。

ビジネスのリモート化と並行して、営業デジタルシフトという言葉を目にする機会も大きく増えました。実際には、営業デジタルシフトの動きはコロナ禍以前からありました。しかし、コロナ禍をきっかけに多くの人にその存在や必要性が認識されたことから、今後は加速度的に浸透していくと考えられます。

とはいえ、営業デジタルシフトとは何なのかと問われた時に、漠然としたイメージしか浮かばないという方も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、まず営業デジタルシフトの定義を確認した上で、営業を取り巻く社会の潮流や従来の営業プロセスが抱える課題を明らかにして、なぜ今、営業デジタルシフトが求められているのか、営業デジタルシフトのto-be像は何なのかを解説していきます。

 

Ⅰ 営業デジタルシフトの定義

営業デジタルシフトの定義は様々ありますが、本サイトの記事では次のように定義しています。

「営業のデジタルシフト(デジタライゼーションおよびDXの両方)を行うための営業の在り方や仕組みを定義して、体制構築および事業戦略・計画を立案・実施すること​」

デジタライゼーションは、業務プロセス全体をデジタル化し新たな価値やビジネスを創出すること​、DXは、デジタライゼーションの発展系で事業の課題解決や、ステークホルダーの働き方を豊かにする変革をもたらすことを指します。

デジタルシフトを推進するための営業のあり方や仕組みの定義は、具体的には以下に示したような活動によって可能になります。なお、詳細は別記事で事業計画策のステップと合わせて解説していますので、あわせてご覧ください。

・事業戦略・ビジョンの提示​

・経営・事業トップのコミットメント​

・DX推進のための体制整備​

・人財、プロセス、製品開発などの投資等の意思決定のあり方​

さらに、DXにより特に実現すべきものとして、ITシステムを活用したマーケティング・営業プロセスの標準化など、​スピーディに変化へ対応できる組織体制の構築や、事業戦略・計画を策定することが挙げられます。こちらも詳細は別記事をご参照ください。

まずは、営業デジタルシフトが単なるデジタルツールの導入・活用に留まらず、営業自体の変革を含む点をご理解いただければと思います。

 

Ⅱ営業を取り巻く社会の潮流

それでは今、営業デジタルシフトが求められる背景にはどのような社会の潮流があるのでしょうか。以下、(1)~(3)の3点を見ていきましょう。

 

(1)モノを売る営業の限界

営業を取り巻く社会の潮流として、まず、グローバル化によって「モノ売り」では十分な利益の確保が難しくなっている状況が指摘できます。市場全体の製品のレベルが向上してモノ自体での差別化が困難になったことや、それに伴う価格競争の激化から「コト売り」「体験の提供」に転換する企業が多く存在します。

売り方が変化するということは、当然のように売り手側のスキル変容も求められます。顧客との対話を通してニーズを明らかにし、自社および他社の製品やサービスの良し悪しをきちんと認識した上で、顧客にとっての最適な提案を行うこと。こうした営業活動の本質が変化したわけではありませんが、要求されるレベルが高度化しているといえます。

 

(2)日本企業の生産性の課題

もう一つ重要な潮流として、グローバル競争にさらされ続けている日本企業の生産性が国際水準を下回っており、その改善が急務となっている状況が挙げられます。生産性向上の取組には様々なアプローチがあり得ますが、ITの活用は有力な方法の一つです。

実際、多くの企業ではITによる業務改善が進められています。特に経理、製造など、データ化が容易な部門ではすでにかなりの部分でIT 化が進み、データをもとに議論する土壌が20年以上前からつくられています。その点、営業はIT化が遅れている領域であり、改善の余地が大きいと考えられます。

 

(3)顧客の購買行動の変化

さらに、ITの普及がもたらした顧客の購買行動の変化も、営業を取り巻く重要な社会潮流として挙げられます。

昭和・平成初期の時代は、情報の取得はコストがかかる行為であり、情報の提供自体が営業の付加価値となりえました。ところが2000年頃からのIT の普及に伴ってインターネット上で様々な情報が検索できるようになったことで、情報提供の価値が相対的に低下しました

また、企業側も営業を通した顧客との接点だけでは不十分であることを認識して、対策を講じつつあります。ITツールを活用して、将来顧客となる見込みのある層の発掘・特定、見込み顧客への情報提供などを通した醸成活動、成約率の高い状態まで醸成できた後の営業活動など、さまざまな部門が連携して顧客との接点をつくり、維持しようとしています。

(1)~(3)に加えて、少子化や働き方改革への対応の不十分さ、職種としての人気の減少もあり、優秀な人材を確保しづらくなっている点も押さえておく必要があるでしょう。

 

Ⅲ従来の営業プロセスの課題

営業デジタルシフトが求められる背景には、従来の営業プロセスそのものが抱える課題の解決が目指されていることも指摘できます。どのような課題があるのか確認していきましょう。

 

(1)新規顧客開拓へのリソース不足

新規顧客の開拓には、ターゲットになりうる膨大な潜在顧客に対し自社の認知を促進し、ニーズの有無を引き出して案件を発掘してくる活動が必要となるため、従来の営業活動において最も活動量が必要となります

単に必要な活動量が多いだけでなく、顧客の多くは関係性が薄い段階であることから、商談につながる割合が相対的に低い点も活動の負担を増す要因になっています。

そのため、新規顧客開拓に十分なリソースを振り向けられない傾向が多くの企業で見られます。特に営業がクローズ時期の近い案件を持っているような場合、営業個人としてはそちらの対応を優先せざるを得ず、新規開拓活動ができないジレンマは、よく見られる現象です。

 

(2)案件確認に終始するマネジメント

営業個人が新規顧客の開拓にリソースを割きづらいのと同様に、これまでの営業組織では、マネジメントもその時点での案件確認、つまり「今期の目標数字の達成に寄与する案件がどれだけあるのか」「その案件は受注できそうなのか否か」などの確認が中心となりがちです。

一方、「見込み案件がどれくらい積まれているか」「見込み案件を生み出す活動をどれくらいできているのか」といった、新規顧客の開拓や中長期的な案件の育成については、マネジメントの優先度が下がる傾向があります。その結果、次の期の準備が十分に行えなくなり、期ごとに案件不足に苦しむ悪循環に陥る場合もあるでしょう。

従来の個別の案件確認中のマネジメントには、営業プロセス全体の適切な評価が難しいという課題もあります。個別の案件の成否だけでなく、営業プロセス全体を俯瞰してボトルネックを探ることが可能になるよう、段階ごとの目標設定(評価軸)を持つことが重要です。

 

(3)属人的な顧客プロファイルや案件報告への依存

営業プロセスが個人で完結していたこれまでの方法では、顧客との接点やキーパーソン、顧客が抱える課題、検討見込みの高い時期といった営業提案のヒントになる情報資産が各担当だけに知られている場合が多いでしょう。この場合、その担当が異動や退職をした場合に大きな痛手となってしまいます。

案件管理の観点からも、属人的な報告に頼らざるを得ない状況には課題があります。具体的には、案件の状態を客観的に把握できないため案件の潜在的なリスクが把握できないこと、または受注に至った際に成功要因が析出できないことなどが挙げられます。

 

Ⅳ 分業による営業の新しい形

ここまでみてきたように、営業を取り巻く社会の変化や営業プロセス自体の課題は生じていますが、顧客の課題解決をサポートする、という営業の役割自体は依然として変わりません。

しかし、会社が営業に求める役割や顧客の購買行動が変わった結果、従来の営業のやり方では十分にその役割を果たせなくなっています。顧客のニーズが多様化して商材自体も複雑化する中、1人ですべての業務をカバーするのに無理が生じているのです。

効率やコスト、マンパワーを考えても、1人の営業が多くの顧客と深い関係性を築くというのは現実的ではありません。そこで必要とされているのが、営業に関わる組織とプロセスを抜本的に改革して、分業によって営業の新しい形を確立することです。

具体的には、(1)マーケティングとの協業や(2)インサイドセールスの導入によって営業組織・営業プロセスを改革して、新たな営業体制での成果を最大化するために(3)適切な営業戦略や(4)デジタルツールを活用することが求められます。(1)~(4)を順番に見ていきましょう。

 

(1)マーケティングとの協業

営業1人でカバーできる顧客数には限りがあり、多くの顧客にアプローチするためにはマーケティングとの協業が有効です。この協業によって、それぞれの顧客の状態に最適なアプローチを目指します。

流れとしては、まず、営業とマーケティングが連携して、受注例から商材と相性のいい顧客層をあぶり出します。次に、当該のターゲットに向けてマーケティング施策を集中投下し、商材を本当に必要とする(=受注確度の高い)リードを発掘します。その結果、営業はより確度の高いリードに対して提案・獲得に注力することができます。

 

(2)営業の役割分担とインサイドセールスの導入

営業自体もリード発掘から受注までのプロセスを想定して、大きく2つの機能に分けることで、より効率的に業務を進めることができるようになります。

一つは、「ニーズや課題を引き出しながら、購買意欲や関心を高める」機能で、インサイドセールスが担当します。もう一つは、「具体的に提案し、受注につなげる」機能で、従来の営業(=フィールドセールス)が担当することになります。

新たな役割であるインサイドセールスは内勤営業とも呼ばれ、メールやビデオ会議、電話などを用いて営業活動を行う手法です。営業の役割の一部を担う点で、営業事務やテレフォンオペレーターとは異なります。

営業をフィールドセールスとインサイドセールスに分業することには、新規案件獲得の効率化と人材の有効活用という点でメリットがあります。

 

(3)特性に合わせた戦略モデルの構築

(1)や(2)の営業組織・営業プロセスの改革に加えて、顧客層や商材の特性にあわせた組織体系やアプローチを考案し、うまく機能するようなマネジメントに評価と改善プロセスを変える必要があります。

代表的には、ABM型テリトリー型カバレッジ型という3つの営業モデルが存在します。それぞれ戦略や運営手法に特徴があります。詳細は別記事で解説していますので、あわせてご覧ください。

 

(4)デジタルツール活用

営業デジタルシフトには、各部門の連携と、顧客の行動とリンクしたオンタイムでのサービス提供が欠かません。一連のアクションに介在するたくさんの情報(データ)を組織で共有して適切に活用する際、デジタルツールはすべてをつなぐ架け橋となります。

ここでいうデジタルツールとは、セールスフォースオートメーション(Sales Force Automation;SFA)やマーケティングオートメーション(Marketing Automation;MA)、カスタマーリレーションシップマネジメント(Customer Relationship Management;CRM)などの、マーケティングや営業の支援ツールのことです。

営業デジタルシフトによって営業活動などの管理の合理化を進めるためには、KPI やKAI などの複数の評価指標を適切に扱えるようにするデジタルツールの活用が欠かせません。

 

Ⅴ営業デジタルシフトのto-be像

営業デジタルシフトが議論される際には、デジタル化によって営業をいかに進化させるかに関心が集中しがちです。しかし、そういったデジタルツールを導入・活用する取り組みは、営業活動全体の再定義と同時に進めることで、初めて真価を発揮すると考えます。

本記事の最後では、そうした営業デジタルシフトによって可能となる営業のto-be像を紹介します。

 

(1)コストの低減

これまで主に営業が担ってきた顧客との接点構築と維持は、高コストの代表格でした。これらの活動についてデジタルを活用して分業して実施することで、業務効率が向上し、営業コストを抑えることが可能になります

さらにマーケティングとの協業やインサイドセールスの活用には、見込み度の高くない段階の顧客とも継続的に関係を維持するなど、これまでの営業(フィールドセールス)では対応が難しかった粒度・頻度での顧客管理が、同一コスト、またはそれ以下で実現できるようになる利点もあります。

 

(2)社内分業と標準化

多様化する顧客ニーズに応えるためには、従来の営業(フィールドセールス)のみによる顧客カバーから、マーケティングオートメーション、インサイドセールスなどを活用した組織横断でのカバーが求められるようになります。

こうした分業体制を実現するには、業務の標準化が必要不可欠です。例えば、案件の状態(パイプライン)管理は、これまでは営業個人の判断に任せられていたため標準化の必要性はそこまで大きくありませんでしたが、顧客の状態によってプロセスごとに分けて管理するようになり、定義化・標準化が重要となっています。

こうした業務の標準化はこれまで属人的だったノウハウの見える化と横展開を可能にして、営業にまつわる情報のデータ化を推し進めることにもつながります。

 

(3)顧客活動のデータ活用

(2)の標準化によって、デジタルツール上に各プロセスのデータが集まるようになります。これまでは営業個人の頭の中にあった情報が可視化されることで、さまざまな活用が期待できます。

具体的には、見込みの高い顧客の状態とはどのようなものであり、どう判断すればよいのかなどの顧客管理にまつわる情報や、社員のスキルを高めるために参考にすべき活動やプロセスとはどういったものかなどの社員トレーニングに有益な情報などが挙げられます。

営業デジタルシフトに伴うデータ化によって、これまで暗黙知や見えないノウハウとして蓄えられてきたものを、より積極的に活用できるようになります。

本記事で解説してきたように、営業デジタルシフトはここ数年のトレンドではなく、10年単位の大きな社会の潮流に対応するため取り組まれてきた活動の延長上にあります。営業活動を時流に合わせて改善していく上で、営業活動全体を再定義しながらデジタルツールを導入・活用する営業デジタルシフトは、有力な選択肢になるといえるでしょう。

営業デジタルシフトのメソッド
1.「営業デジタルシフト」がもたらす新たな営業の形とは?
2. 営業が「デジタルシフト」すべき理由とは?
3. 営業デジタルシフト推進に最適な営業モデルとは?
4. 部門間アライメント―営業デジタルシフトに対応した事業戦略のポイント
5. 営業デジタルシフトで直面する課題の解決例
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