3. 営業デジタルシフト推進に最適な営業モデルとは?

営業デジタルシフトのメソッド

営業デジタルシフト推進に最適な営業モデルとは?

営業デジタルシフトを進める上で特に企業ごとに大きな違いがあるのが、営業モデルの選択です。ターゲットとする顧客や市場、目指すゴールによって、それぞれの企業が選択すべき営業モデルは異なります。

本記事では、営業戦略の立案から営業活動の実行までを自社で行う場合の営業モデルについて、代表的なものを3つ取り上げます。それらの特徴を説明した上で最適な営業モデルを選択する方法を解説していきますので、読者の皆さまの企業で選択するならどのモデルだろうかと考えながらお読みください。

 

Ⅰ営業デジタルシフトの代表的な営業モデル

初めに、営業デジタルシフトの代表的な営業モデルを3つ紹介します。

こちらは別記事(2)で触れている内容の振り返りですので、すでにお読みの方は次の項目まで飛ばしてください。

 

(1)ABM(Account Based Marketing)型

ターゲットをアカウント(=企業)単位として、企業ごとに最適な施策を実行し、中長期的な関係性を維持発展させ、ターゲット企業内でのインナーシェアの最大化を目指す営業モデルです。1社当たりに割く営業工数が最も多いモデルといえます。

 

(2)テリトリー型

ターゲットをアカウント群(=企業群)で区分し、ターゲットアカウント群に最も効率的にアプローチできる注力ソリューションなどの戦略を定め、中~短期的な関係性の構築の中で、市場シェアの最大化を目指す営業モデルです。

 

(3)カバレッジ型

顧客ごとに営業を配置せず、マーケティング活動(テレマーケティングを含む)により顧客にアプローチし、特定の商材のデマンドジェネレーション(案件創出)を通じて、当該ソリューションの市場シェア拡大を目指すモデルです。1社当たりに割く営業工数は最も少なくなります。

 

Ⅱモデルごとの役割分担の違い

それぞれのモデルの特性に応じて、営業内でのフィールドセールスとインサイドセールスの役割分担や、営業とマーケティングの役割分担は大きく変わってきます。各営業モデルの特徴を理解する上でも重要な要素ですので、概要を解説していきます。

なお、テリトリー型とカバレッジ型では、自社で営業活動を行うだけでなく、パートナー企業と共同で提案や販売を実施するケースもあります。

 

(1)ABM型

3つのうち顧客との関係構築や深化が最も重要なモデルであるため、フィールドセールス(営業)が主軸で営業戦略の立案や実行を行います。

一方で、マーケティングやインサイドセールスのリソースを有効活用するため、連携して計画立案や営業活動を進めることも重要です。たとえばマーケティングは、フィールドセールスのみでは関係を構築するのが難しい上位役職者に対してエグゼクティブ・ミーティングなどの場を創出するなどの役割を担います。

 

(2)テリトリー型

比較的多数のターゲットアカウント群をカバレッジする必要があるため、フィールドセールスは案件クロージング中心インサイドセールスは新規案件の発掘や育成、といったかたちで役割分担するのが一般的です。

マーケティングはターゲットアカウント群のうち1社でも多くの顧客との接点を増やすべく支援を行います。

 

(3)カバレッジ型

原則として顧客ごとの営業配置をしないため、マーケティング中心でデマンドジェネレーション(案件創出)を実施します。商材によって例外もありますが、クロージングもオンラインでの注文やインサイドセールスで実施することが多いです。

マーケティングの果たす比重が他のモデルに比べて最も大きく、マーケティングが潜在顧客発掘に向けた幅広いアプローチの実施、自社ソリューションの認知拡大の役割を担います。

 

Ⅲ最適な営業モデルを選択するために

3つの営業モデルのうち最適なものを選択するには、中心的な3つの軸+補足的な2つの軸から判断することができます。

まずは判断基準となる軸を5つ挙げて、それらを活用して営業モデルを選ぶためのチャートをご紹介します。

なお、それぞれの企業の状況によっては企業群ごとや商材ごとに異なるモデルの営業戦略や営業活動が必要になる場合もあります。複数の営業モデルを組み合わせて採用する可能性があることも踏まえて、柔軟に検討してください。

 

(1)営業モデル選択のための3+2軸

 

中心軸1 顧客

1つめはターゲット顧客の企業規模や数から判断する顧客軸で、最もわかりやすい軸だといえるでしょう。

まず、1社あたりから期待される売上収益が大きく、個別ターゲット企業に集中的にリソースを投下して中長期的な関係構築をするのが望ましい場合、ABM型が適切です。

たとえば、ターゲット企業が多岐にわたる部門やグループ企業などを有しており、現状自社で獲得できているインナーシェアが限定的でホワイトスペースが大きい場合や、顧客にブランド力があり、関係深耕により市場全体への大きな影響が見込まれる場合などが相当するでしょう。

次に、ABM型が必要とするリソースに見合うだけの売上収益の見込みがなく、より多くのターゲット企業に効率的にアプローチしていきたい場合にはテリトリー型が向いています。

具体的には、大規模~中規模の企業を対象とする場合や、数十社~数百社の単位でターゲットアカウントがある場合などです。業界や業種、地域などの共通属性でくくった企業群を対象とするのが一般的です。

最後に、業界などに左右されない共通的なソリューションや商材を扱い、中小規模の企業が中心になる場合や、ターゲットとなりうる顧客が無数に存在する場合など、ターゲット企業を絞り切れない場合には、ターゲットを「企業単位」で扱うのではなく「市場」として取り扱うカバレッジ型が適切です。

顧客について検討する際には、最終的にどの営業モデルを選択するとしても、別記事(2)で述べた顧客セグメンテーションを行い、その結果を活用するのが重要です。

 

中心軸2 営業リソース

2つめは自社の営業部門のリソースとの兼ね合いからモデルを検討する営業リソース軸です。

まず、1社1社のフォローに十分な労力が割ける体制、つまり複数部門・重要関係者を開拓するために営業(フィールドセールス)1人当たりの担当社数を限定できる体制が整っていれば、ABM型の適用が可能です。

一方で、営業の工数が限られていて1人の営業当たりが担当しなくてはならない社数が多い場合は、テリトリー型が適切です。

加えて、営業担当の個社対応を極力行わない方針である場合は、カバレッジ型を検討するとよいでしょう。

 

中心軸3 ソリューション・商材

3つめは顧客軸と同様に期待収益に直結する、自社が提案できるソリューションの種類・特性から判断するソリューション・商材軸です。

まず、自社の武器となる商材を洗い出し、顧客別に商材をカスタマイズできるかどうかを分析した上で、中長期的に関係構築・継続する中で提供できる価値があるという場合には、ABM型が適切です。

次に、ABM型のように顧客のニーズを主軸に複雑・多様なソリューションを取り扱うのではなく、あらかじめ注力するソリューションを定めてアプローチしていきたい場合は、テリトリー型が適切です。

ただし、ある程度顧客ごとのニーズに応じてカスタマイズすることが想定されている場合に限ります。この条件を満たさない場合にはカバレッジ型のほうが適しているといえます。

前述の通り、カバレッジ型では原則としてパッケージ化されている(レディメイド型)か、もしくはカスタマイズが最小限のソリューション・商材が基軸の場合に選択されます。

 

補足軸1 顧客課題

補足的な軸の1つめは、想定される顧客課題です。

まず、複雑かつ長期的な施策での解決が必要な顧客課題に対する提案を行う場合、複数の関係者や複数部門に対するアプローチを通じて課題を深堀りできるABM型でのアプローチが有効です。

一方、特定の部門や業種、地域に存在する課題に対して提案を行う場合は、一定の属性でくくったアカウント群に対して共通のアプローチを行っていくテリトリー型で充分に対応できます。

加えて、顧客課題起因というよりも、マーケティングなどで自社商材の魅力などを伝えて顧客ニーズの喚起を目指す場合は、カバレッジ型が適切でしょう。

 

補足軸2 目指す関係性

補足的な軸の2つめは、顧客との間で目指す関係性です。ほかの軸と重複する部分もありますが、複数のモデルで迷う場合に論点を整理する上で有効です。

まず、中長期的な視野で、顧客との面での関係性を構築していくことを目指す場合、つまり複数部門やグループ企業と取引を並行していくことを目指す場合は、ABM型が適切です。

次に、個別アカウントとの関係性が重要ではありながら、ABM型ほど1社ずつ面での関係性構築のための活動にリソースを割くことが難しい場合には、テリトリー型が適しています。

最後に、比較的短期的な関係構築の中で受注を目指していく場合、もしくは一社一社に対する深追いをしない場合には、カバレッジ型を適用するとよいでしょう。

 

(2)チャートで選択する最適な営業モデル

ここまで述べてきたように、営業モデルは顧客規模などから判断される売上ポテンシャルと、そのほか複合的に絡み合った要素の掛け合わせで判断することになります。

それらを単純化してチャート形式で表すと、次のようになります。自社の状況を当てはめて検討する際にご活用ください。

 

 

 

 

顧客軸

1社で多数の部門・グループ会社を有する大規模企業

業界や業種、地域などの共通属性がある大~中規模企業群

不特定多数の企業群

営業リソース軸

担当社数が限定的で1社当たりに十分な労力を割ける場合

担当社数が数十社~で1社にかけられる工数が限定される場合

営業担当の個社対応を極力行わない方針の場合(マーケ・インサイドセールス中心)

ソリューション・商材軸

複雑・多様なソリューションで、個社別カスタマイズ

業界や業種特化のソリューションで、ある程度顧客にあわせカスタマイズ可能

原則カスタマイズは実施しないソリューションの提供

顧客課題軸

複雑かつ長期的な解決が必要な課題が存在

特定の業界や業種、地域に課題が存在

マーケティングで顧客ニーズを喚起・創出

目指す関係性軸

複雑かつ長期的な解決が必要な課題が存在

短~中期的な関係構築・深耕をしていきたい

短期的な関係構築・深追いはしない

営業モデル

ABM型

テリトリー型

カバレッジ型

 

本記事では営業デジタルシフト推進に欠かせない営業モデルについて、その特徴を説明した上で、企業ごとに最適な営業モデルを選択するための方法を解説してきました。

まずは現状の営業戦略や営業活動がどのモデルに近いのか確認した上で、顧客セグメンテーションや目指すゴールを踏まえて今後採用すべきモデルはどれなのか、複数を組み合わせる可能性も視野に入れて検討していってください。

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