インサイドセールスを自社の社員で行うための必要な事項
インサイドセールスの導入にあたっては、営業リソースを用意する先を選ばなければなりません。
社内か、または社外か。
それぞれの選択に長短がありますが、新規導入を検討する企業はノウハウの蓄積がないために、難しい判断を迫られるのではないでしょうか。
今回は、社内でインサイドセールスを運用する場合のメリットとコツについて、グローバルインサイト社CEOの水嶋玲以仁氏に伺いました。
水嶋玲以仁
プロフィール:
インサイドセールスの実務全般について、18年に及ぶ経験を持つ。そのうち16年間は、世界有数のIT企業でBtoB及びBtoCのインサイドセールス、営業チームの発展と管理業務に携わる。(Dell で7年、 マイクロソフトで6年、Googleで3年)
これらトップレベルのIT企業において、一貫して売上目標を上回り、営業チームを再編成し目覚ましいシナジーを生む結果を得る。
なぜ社内でインサイドセールスか
―インサイドセールスの導入を社内で行う背景はどういったものでしょうか
もともとはアウトソーシングする企業が主流でした。
しかし、MA(マーケティングオートメーション)の普及により、自社の社員でまかなう企業が増えてきました。
―なぜMAの普及が社内インサイドセールスの増加につながったのでしょう?
ひとつには自社の営業部門の生産性を高める狙いがあります。
MAはオフライン、オンラインの両軸でマーケティングを行い営業の効率化に貢献する。
MAの成果を自社の営業リソースが吸収することで、ノウハウの蓄積や業務プロセスの改善など長期的なメリットが見込めるわけです。
―外注してしまうと、改善コストがかからない代わりに、恩恵も受けられないと
部分的に業務がブラックボックス化してしまいますからね。
もうひとつの理由には、MAを導入する企業の人手不足が挙げられます。
―どういうことでしょうか
MAを導入する企業はITやWebサービスを取り扱う新興企業が多いといえます。
人材の絶対数が足りない部分を効率化で補うため、インサイドセールスを取り入れるのです。
ただ、近年は新興企業における成功を知った大企業もインサイドセールスを導入する事例が増えていると聞きます。
インサイドセールスを自社で行うメリットは、企業の規模に関係なく享受できますからね。
社内インサイドセールスに必要なこと
―それでは、実際に社内でインサイドセールスを構築するために必要なことを伺います
大きく分けて4つ挙げられます。
業務の標準化、成功モデルの改良、ソフトウェアの適切な設定、問題の共有です。
―それぞれについて詳しくお願いします
業務の標準化というのは、ヒトに依存しない営業をつくるということです。
従来型は成果も失敗も属人的に帰結させてしまい、構造に目を向けない傾向にあります。
そうではなく、誰が配置されても成功する業務プロセスをつくらなければならない。
裏返しに、誰がやっても失敗する案件だったとしたら、やはりプロセス自体の見直しを図ることになるでしょう。
―具体的に標準化とはどのように組み立てるものなのでしょう
まずはフローチャートを作ります。
フローチャートでは、それぞれの工程で必要な時間と労力を見積もる。
工程間の進行にかかる時間も見えるようにしましょう。
また、重要なのが工程ごとの成功率です。
―工程ごとの成功率とは
各工程において、次のステージに進めているか否かを件数との割合で計るのです。
もしも次につながらない、つまずきの多い工程があるならば重点的に見直しを図る必要があります。
ここにおいても、業務の進め方に問題があるのか、人によって取り組みにバラつきがあるのか、バラつきがあるならば成功するプロセスをどう構築しなければならないかを考えるのです。
as is(あるがまま)モデルからto be(あるべき)モデルへの転換がカギといえるでしょう。
―2点目の成功モデルの改良とはどういうことでしょう
成功したケースについて学び、プロセスの改善に活かすということです。
属人型営業から脱却するためには、優秀な人材を活用しないということではありません。
むしろ、成功する営業のノウハウをプロセスに落とし込み、チーム全体の成長につなげなければならない。
ここで留意しなければならないのは、仕事がデキる営業をベンチマークにして満足してはいけないということです。
プロセスの改善に成功していれば、「個人の頑張りの集合」としてではなく、乗数的に全体が成長しているはずだからです。
―モデルの改良にあたって具体的な方策はありますか?
改良のカギは、優秀な人材からいかにノウハウを引き出すかというところにあります。
往々にして、デキる営業は成功のコツを隠しておきたい、自分だけの武器にしておきたいと思うものです。
ですから、組織に貢献したいという気持ちをチームに定着させること。
中長期目線で動ける人材を育てることが大事です。
―3点目のソフトウェアの適切な設定についてお願いします
ソフトウェアというのはMA管理ツールやCRM[note]顧客関係管理ツール[/note]といった、インサイドセールスを支えるITインフラを指します。
適切な設定というのは、主に管理するデータの入力項目について、運用に支障が出ない程度に、シンプルに設定するということです。
―CRMなどは、デフォルトの設定に加えて細かいカスタマイズが可能だと聞きます。しかし、あくまでシンプルな設定を心掛けるということですね
ありがちな失敗として、ツールに詳しい担当が、設定を作り込みすぎてしまうことが挙げられます。
細かく作られた設定は、状況に応じた修正が困難になりますし、入力の作業コストを増やし、入力する側のモチベーションを下げるといったデメリットがあります。
シンプルに、小さく始めることが、インサイドセールスにおける適切なITインフラの構築なのです。
―4点目の、問題の共有についてお願いします
インサイドセールスに限らず、問題の共有というのはビジネスにおいて非常に重要です。
ただ、従来型の営業から差別化を図るならば、問題解決のための場を設け、チーム全体の課題として取り組むことが気を付けるべきポイントです。
特にマネージャークラスについては、 営業報告を見る際、担当個人に焦点を当てるのではなく、仕組みの改善点をあぶりだす。
デキる営業、デキない営業といった社内の隠れた序列意識を崩しましょう。
おわりに
―今回は社内インサイドセールスに必要なことについて整理していただきました。導入にあたって手探りの企業のみならず、すでに導入を始めている企業へのヒントにもなるように感じました。
最後になりますが、社内でインサイドセールスを行うために最も重要なことは、実はプロセスではなく、意識改革にあります。
既存の仕組みを変えるんだという気持ちを社内全体で共有すること。
従来の成功体験の蓄積がある企業ほど、これは難しいことなのですが、新しい仕組みを取り入れるためには、まずなによりも重要なことなのです。
―変化に対応するためのマインドセットが実は一番重要ということですね。本日はどうもありがとうございました。