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事例紹介

北國銀行従業員組合のマーケティングワークショップ事例

石川県を本店とする株式会社北國銀行(以下、北國銀行)は、どこの銀行にとっても大きな事業改革を迫られる昨今において、いち早く業務のペーパレス化や全システムのクラウド化、さらにはネットバンキングの利用料無料化といった大胆な改革を次々に進める地方銀行の雄である。

この度、グローバルインサイト合同会社(以下、GIJ)は北國銀行従業員組合が主催する企画として、若手社員向けのマーケティングワークショップを実施。会社の既定の研修ではなく、自ら学びたいという意思で参加した社員に向け、全4回のプログラムを実施した。なぜ従業員組合が従業員向けにマーケティングを学ぶ機会を作ることにこだわったのか。そして普段は北國銀行の各拠点で企画業務・営業業務に従事する若手社員が、マーケティングを学ぶことで何を感じ、どのような変容が生まれたのか。プログラムに参加した若手社員2名ならびに企画した従業員組合に話を聞いた。

(聞き手:水嶋玲以仁)

目次
【若手社員,若本様と横田様へのインタビュー】
若手社員はなぜ自らマーケティングを学ぼうと思ったのか
これからの銀行でのあり方とマーケティングの関係
知識のインプットだけでは身につかない
日々の仕事の在り方を見つめなおすきっかけになったワークショップ
今後のキャリアをどう考えるか
【従業員組合の濱村様と山田様へのインタビュー】
今改めて「地域企業の付加価値を高める」という企業ミッションと営業の役割を問いなおす
内部に変化を呼び起こすために、外部の装置を活用する
これからの地方銀行の営業の在り方
従業員組合が勉強会を実施する意義
北國銀行の従業員組合が目指す姿
これからのGIJに期待すること

若手社員はなぜ自らマーケティングを学ぼうと思ったのか

―自己紹介と、今回プログラムに参加した動機について教えてください。

若本様:7年目の若本と申します。2年前まではカード事業課というところでデビットカードの事業企画やキャンペーンの施策立案を担当しており、その際にマーケティングについてかじってはいました。当時システム知識がないと苦労することが多かったので、システム知識を身に着けたいと思いシステム部に異動し、現在はCRM開発プロジェクトのプロジェクト推進をしています。今後は、業務知識とシステム知識のかけ合わせで何かをしていきたいと思っています。その時にマーケティングの視点も大事だと思い、今回改めて体系的に勉強したいと、ワークショップに参加しました。

横田様:3年目の横田と申します。入社すぐに富山県滑川市にある支店に法人営業として配属され、現在はSME部(注・本店の個人事業主~中小企業向け営業部門に異動になりましたが、入社してからずっと法人営業です。普段の業務ではお客様に融資やリース、カード端末導入などのご提案をしています。マーケティングに興味を持ったきっかけは、去年の秋頃から営業業務とは別に、COREZO(注、北國銀行のECサイト)のインスタグラムアカウントの運営にも関わるようになったことです。そこでは自分がいいなと思ったお客様の商品の紹介記事を作成するのですが、マーケティング知識がないとどういう記事がいいかわからなくて、マーケティングの知識を身に着ける必要性を感じました。逆に法人営業としても、お客様と対話する上でマーケティング知識が必要だと思い、今回のワークショップに参加しました。

横田様

若本様

これからの銀行でのあり方とマーケティングの関係

―なぜマーケティングの知識が必要だと思ったのですか。

若本様:カード事業課にいた時にはマーケティングを体系的に勉強したわけではなく、必要そうな要素をつまみ食い的に勉強していました。でもマーケティングといってもポジショニング戦略や色んな考え方があるので、体系的に勉強することでそれらを使い分けられるようにならなければいけないと思いました。またデビットカードという既に出来上がっている商品を扱っていたこともあり、当時はキャンペーンで利用率をどうやって上げるかという、数字にばかり着目しがちだったのですが、フレームワークを使って商品そのものの価値を改めて定義することも含めて、本来の意味でのマーケティングをちゃんとできるようになりたいと考えるようになりました。

横田様:去年の暮れ頃から、私達営業に対して、お客様の「事業性理解」が今後もっともっと重要になると、経営からの明確なメッセージが出されるようになりました。いわゆる融資やカード端末の押し売りではなく、お客様の事業をきちんと理解した上で必要なものを提案できる営業になること。去年の暮れに「事業性理解」というキーワードが出た当初は、正直戸惑ったのですが、部内の若手同士で定期的に勉強会なども開きながら、最近ようやく腑に落ちてきたという感じです。昔の銀行は融資ができればよかったかもしれないけれど、これからは融資以外にも、事業へのアドバイスや幅広い提案ができるようにならなければいけないので、そのためにはお客様の事業をきちんと理解することと、事業に必要なものを考えてご提案ができるように、私自身がマーケティングの知識を持っていなければいけないと感じるようになりました。

知識のインプットだけでは身につかない

ワークショップは全4回のプログラムで実施された。教科書的な学習で終わらせないために、出来る限り自身の頭と手を動かしながら学べるプログラムをという方針で、第1回は参加者に自身の目指すキャリアと現状とのギャップ、今後身に着けるべきスキル等について改めて考えるワークをしてもらった。第2回、第3回は本題であるマーケティングの基礎知識や考え方をインプットする目的で、主に講義形式で進んでいったが、参加者には事前に課題図書に目を通してもらい、その間調査してもらった実際の事例などを参加者同士で発表してもらうことで、活発な意見交換が行われた。最終回である第4回では、それまでにインプットした知識をもとに実際に自身が担当する顧客を想定した改善提案を考えてきてもらい、発表する場とした。

―ワークショップに参加した感想はいかがでしたか。

若本様:セミナーやワークショップのような機会がないと、結局自分で関連書籍を読んで分かったつもりになって完結しまいます。今回のワークショップでよかったなと思うのは、そこで完結せず、同じような課題をやってそれを皆で共有することで、他の人がどう考えているかを共有できたこと。ひとりで勉強していても気づけない気づきがあって、自分の理解も深まり視野が広がりました。あとは参加者のレベル感が近かったことも、学習する身としては良かったと思いました。

横田様:講師の方たちが、こちらのレベル感に合わせて言葉を選びながら説明してくれているなと感じて、それがとても分かりやすかったです。それから、他のセミナーでは基本的にずっと話を聞いて終わる印象ですが、今回は途中途中考える時間を設定してくれていたのが良かったと思いました。話を聞いているだけだと結局頭を使わないままで、分かった風で終わってしまうのですが、今回のように途中途中にお題を与えられて、どうしよう!と思いながら書き出したり、他の人と話したりすることで、色んな気付きがありました。マーケティングの知識が何もないところからのスタートでしたが、知識を教えてもらうことと、今いる銀行のことも考えさせてもらいながら勉強できたのはとても良かったと思います。

―今回、各回の間に宿題を出していました。宿題は、大変でしたか。

横田様:ちょっと大変でした(笑)同じく参加していた同期の子たちとどうしよう~と言いながらやりました。きっと、こんな機会がないとやらなかったことなので、それが出来て、人と一緒に考えるタイミングを作れたのは、良かったなと思いました。

―今回、業務命令のトレーニングというわけではないので、宿題出してもどこまでやってくれるのかとは思っていたのですが、皆様すごく真面目にやってきてくださったので、講師としては嬉しい驚きでした。各回間は2週間程度でしたが、どのように宿題に取り組まれたのですか。

若本様:僕は今回のワークショップと別に、個人で参加している教育プログラムがあって、それと時期が被っていたんです。追い込まれないとやらないという自分の性格を分かっていたので、とりあえず入れて回す方法は後から考えようと思い、時期が被っていることをわかりつつ入れました(笑)なので間2週間あったら最初の1週間で終わらせようと、出来る限りの時間を決めてやりました。業務ではない分、このレベルまで到達しないとダメというものではないので、それである意味気持ち的には楽にできました。

横田様:私は同期の子と一緒にやるようにしていました。最初は課題をみてもそもそもやり方がわからないので、講師の人が用意してくれたお手本を見ながら考えられるところまで自分で考えて、同期の子と時間を合わせて一緒に隣でみながらやったり、時間が合わなければ課題を送りあいっこしてみてもらったりしていました。

日々の仕事の在り方を見つめなおすきっかけになったワークショップ

―ワークショップを通じて学んだこと、今のお仕事に活かせていることはありますか。

若本様:今回マーケティングの基本的なフレームワークを勉強することができましたが、同時にマーケティングだけのスキルを磨いても限界が見えているとも感じました。分析をするにしても、例えば法人営業であれば、その業界の知識を持っていたりする上で活用するからこそ効いてくるフレームワークだと感じたんです。なので、マーケティングだけではなく、勉強の範囲を広めにとる必要があると感じました。

―おっしゃる通り。一般的なマーケティングの勉強はご自身でも出来るし、マーケティング理論そのものが新しいわけではありません。自分の業務や、これからやっていかなきゃいけないものとの組み合わせで初めて価値が出る。最終課題が自分の顧客への提案だったのは、まさにそういう意図で、自分ごととして価値にしてもらいたいと思ったからだったんです。

横田様:自分のお客様に対する提案書を作成する中で、SWOT分析のようなフレームワークを実施したり、この会社がこの業界の中で売っていくとしたら何が強みなんだろうと考えたりしたのが、初めてお客様の立場に立って考えたような気がして、とても刺激になりました。これまでは、お客様の業界の将来性や、その市場が今どんな状況になっているかを理解せずに、融資の相談をされた時の数字しか見ていなかったなと思ったんです。今後法人営業としてお客様と接する時は、このお客様が何をどうやって売ろうとしているのかというのを、直接は聞かずとも、考えながら聞かなければいけないと思いました。ワークショップを受けてからは、お客様だけでなく、周りの状況を見ながら対話するというのを意識していて、少しづつ実践にも活きてきていると思います。

今後のキャリアをどう考えるか

―今後の目標や意気込みがあれば教えてください。

若本様:自分は10年後こうなりたいという明確なビジョンよりも、今大事だなと思うものをその時々でしっかり身に着けていくことで、その複合的な掛け合わせからキャリアが形成されていくと思っているので、今後も色んなことに挑戦しつつそれらをアウトプットにつなげていきたいと思っています。人に見てもらうという緊張感やフィードバックがアウトプットの質を高める上では必要だと思っているので、今後もワークショップなどには継続的に取り組んでいきたいです。

横田様:今回学んだマーケティングの知識や考え方を活かして、お客様と対話し、お客様への理解、それから本当に必要なことを提案できるようになりたいと思っています。それから、今記事作成にかかわっているCOREZOについても、マーケティング観点でいえばまだまだやれることが沢山あると思っているので、そっちにもマーケティング知識を生かしていきたいと思っています。COREZOの担当者の人とも会話して、積極的に運営に関われたらと思います。

―ありがとうございました。

 

(以下、従業員組合の濱村様と山田様へのインタビュー)

今改めて「地域企業の付加価値を高める」という企業ミッションと営業の役割を問いなおす

―組合として今回マーケティングワークショップを企画なさったのはなぜですか。

濱村様:「地域企業の付加価値を高めましょう」というのがうちの会社のミッション・経営理念です。これまで私達が地域企業にやってきたことは基本的に融資でしたが、そのミッションに立ち返って今後私達が地域企業のために何ができるのかを問い直すと、これからはよりマーケティング視点をもって顧客の事業に対して提案をしていくことが必要だと思っています。今私達は「我々は地域の企業に対して、経営企画室になろう」というスローガンを掲げています。現在、現場でも事業性理解という考え方が浸透しつつありますが、外部の知見に触れてより深くマーケティングの考え方を体感してもらう機会になればと、今回のプログラムを企画しました。

山田様:営業という仕事の面白さを改めてとらえなおす機会になればというのも狙いの一つでした。僕はどちらかというと営業を好きでやっていたのですが、若手にとっては営業は「いやな仕事」「やらされ仕事」だというイメージが強いなと感じていたんです。でもとらえ方を変えたら楽しくやれる仕事だというのを感じてほしかった。その点でいえば、参加者の若手からも、新しい発見があったという感想が得られたので、自分としてはうれしいなと思いました。

濱村様

山田様

内部に変化を呼び起こすために、外部の装置を活用する

―なぜ外部の知見を入れようと思ったのですか。

濱村様:正直言って、組織の中にいて、会社の中で生き残ることだけを考えれば、外部の情報や知見から学ぶというのは必ずしも必要ないんです。一方で、地域の経営企画室として、本当に地域に、世の中に、本質的な価値を提供しようと思ったら絶対に外部からのインプットも必要だと思っています。元々水嶋さんの本やセミナーを拝見していたので、ぜひ関わってもらいたいと思っていました。

―ご期待には沿えましたか。

山田様:4回という限られた機会でしたが、かなりいい時間を過ごせたんじゃないかと思います。意外に顔を合わせる機会がない複数部門・拠点にまたがるメンバー同士の交流にもなりましたし、あれからワークショップを踏まえて営業の中でどうしているの?といった会話もできています。組合として、業務上ではなかなか交流のないメンバー同士が共通の目的をもって内外の知見を交換するような機会を増やしたいとも思っていたので、そういう効果も今回のワークショップであったなあと思っています。また今回、GIJさんには、うちの要望をヒアリングした上で、ニーズに合わせた講師のアサインをしてもらえたのもとてもありがたかったです。

これからの地方銀行の営業の在り方

―これまでとこれから、北國銀行の営業の在り方はどう変わっていくと思いますか。

濱村様:何かを売るための営業、というのはどんどんなくなっていくと思っています。販売ありきではなく、本質的な顧客起点、顧客主義をどう実現していくかが重要になってくる。営業活動もいかにモノを売れるかより、顧客がさらにその先の顧客のニーズに対してより良いものを提供するための時間を作り出すにはどうしたらいいかという考え方にシフトしていかなければいけない。インサイドセールスやデジタルマーケティングも今後導入が進むかと思いますが、それもいかにお客様の声を効率的に、かつしっかりとキャッチするための手段だと考えています。

 

従業員組合が勉強会を実施する意義

―従業員組合として積極的な活動が印象的ですが、従業員組合の活動をどう定義されていますか。

山田様:昨年、そもそもの組合の意義について言語化しました。本来は組合自体が必要ない状態を作るのが理想だと思っていますが、現時点で必要な機能や役割として4つ定義しています。

労働環境の保全

まず一つは従来通りの組合の役割としての労働環境の保全です。こちらは引き続き重要な役割だと考えています。

キャリア形成の支援

次に、キャリア形成を支援する役割です。これから北國銀行の人事制度もメンバーシップ型雇用からキャリア自律を中心に据えたキャリア型雇用というものに変更されます。元々、銀行マンというのは、与えられた仕事を完璧にソツなくこなすことが求められていて、それができた人が組織内で出世する、そして出世することがキャリアである、という考えが強かったと思いますが、今は組織内の出世にとどまらず広く人生設計の中でキャリアをとらまえていかない時代です。その観点から会社側と組合側でアプローチは違えども目指す方向は一緒だと思っています。従業員組合としては、従業員個々人のキャリア形成を支援していきたい。個々人の北國銀行で働く意味と、将来やっていきたいことが紐づいて、北國銀行で働くことがウィンウィンになっていくことが理想ですので、そのためにもキャリアを考える機会は積極的に提供していきたいと思っています。

エンゲージメントの向上

そうするといわゆるエンゲージメント、北國銀行で働く意味を提供していく活動も必要だと思っています。就職はある種結婚みたいなもので、個人のキャリアにおける凸凹を埋める役割というか、北國銀行がその個人にとっての凹を埋める凸として生かされていくような取り組みをしていかないといけないというのも役割の一つとしてとらえています。

ナレッジセンターの機能

最後にナレッジセンターの機能というのも組合の意義として考えています。結局はキャリアやエンゲージメントにつながるところではあるのですが、外部との接触機会や、学びの場の提供のように、知識・ノウハウを組合がためていき、従業員にとって何か情報が欲しい、困ったというときに、常に最新のものがキャッチできるという機能になっていきたいと思っています。

昨年までは今のような役割を言語化してこなかったのですが、2年前に組合に期待するものについて従業員のアンケートをとった結果、外部セミナーや学びのところを強化してほしいという希望が多かったんです。そこからセミナーを月に何本かやるようになり、その延長として今の取り組みがあります。いわゆる従業員組合の役割として労働環境の保全というのがあるが、北國銀行では休みや労働時間という観点ではある程度満たされている。とはいえ、組織間の協力体制やコミュニケーション不足という課題はあるし、学びの機会を現場で提供するのは難しいということもわかっているので、そこを従業員組合として満たしていければと思っています。

 

北國銀行従業員組合が目指す姿 

―北國銀行従業員組合として今度の目標はありますか。 

山田様:こういう回数を重ねる勉強会は続けていきたいと思っています。単発でのセミナーは以前からも企画していたのですが、単発だと定着しないという課題がありました。今年から、今回のワークショップのような複数回でシリーズになる勉強会をやり始めたところ、受講者からすごく反応が良かったんです。学び、交流の両面で効果が高いと感じました。また、マーケティングについては、今回の参加者以外にも知ってもらいたいと思うので、改めて機会を作りたいと思っています。 

またコミュニティを作っていくというのも、今後組合の役割としてやっていきたいと思っています。何かのテーマに則って、それに興味がある人たち同士が集まり、知見を交換する場を作れればと。銀行に異動はつきものなので、そういう活動を続けていけば一緒に学んだ人同士がどこかで一緒になるということもあるだろうし、逆に今後、異動自体が少なくなって人が固定化していくことになったら、ますます部門を横断したコミュニティというのは貴重な機会になると思っています。今はコロナで直接あうタイミングも少なくなっていますし、そもそも労働人口が減るのに比例してどうしてもコミュニケーションは少なくなってしまうので、個々人の興味関心や考え等を共有しあう場を作るのは、組合の役割なんだろうと思います。 

これからのGIJに期待すること

―GIJに対して今後期待することはありますか。

濱村様:GIJには、オールドスタイルの日本の営業を変える起爆剤になってほしいと思っています。それは必ずしもインサイドセールスの導入には限らず、本質的な営業ってこうなんだよ、というのを我々含む日本企業に示していってほしい。

山田様:僕は、今後地方銀行に積極的に関わってほしいと思っています。銀行は、お堅いと思われがちな業界ですが、北國銀行は今、いろんなデジタル化を進めていて、地域企業の模範になるような先進的な取り組みを進めています。地方銀行はどこも同じような悩みを持っているはずなので、ぜひその支援をしていっていただけたらと思っています。

―ありがとうございました。

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