これだけ違う! 日米のインサイドセールスが担う役割

「エンタープライズ・インサイドセールス実践ガイド」と題し、エンタープライズ(大手企業や公的機関)をターゲットにした場合のインサイドセールスについて、実践のポイントを解説していきたいと思います。

今回は、日米のインサイドセールスの役割の違いについて解説します。

インサイドセールスに難度の高いセールスは無理なのか

読者のみなさんは、インサイドセールスがどのようなものか、概要は理解できていると思います。ひとことで申し上げれば、直接顧客のもとに出向くのではなく、電話やメールなどを用いて行うセールス活動です。

インサイドセールス自体は目新しい概念ではありません。1960年代には既に登場しており、特にアメリカでは日本とは比べものにならないくらい国土が広いこともあり、インサイドセールスはセールススタイルのひとつとして一般的に認知されています。

そして日本でもここ数年、インサイドセールスへの注目度は高まっています。詳しくは連載のどこかで解説しますが、産業構造の変化が影響していることは確かです。加えて労働力人口の減少などビジネス環境の変化も加わり、インサイドセールスの需要が増加しているのだと思われます。

ところでみなさんはセールス全般において、インサイドセールスがどの程度の貢献を果たせると考えているでしょうか? 仮に、

(1)商材の特徴(複雑さの程度)・・・・A
(2)単価・・・・B
(3)対象となる顧客・・・・C

 の観点でイメージしてみてください。おそらく、

A:基本は単一商品で、顧客ごとのカスタマイズの範囲はそれほど複雑でもない
B:比較的低価格帯のもの
C:大手よりは中小企業(または個人消費者) 

と考える人が多かったのではないかと思います。

実際にカンファレンスなどで、インサイドセールス導入を検討している人の話を聞くと、SaaSを扱うスタートアップ系企業に勤めていて、商材のターゲットはベンチャーや中堅企業としているケースは非常に多いです。SaaSの種類にもよりますが、月の負担額は数万円から数十万円というのがほとんどでしょう。この程度の契約レベルであればフィールドセールスに代わってリードを温める役割を担えると思い、インサイドセールスを導入したいと検討しているのかもしれません。

これは裏を返すと、インサイドセールスに対し難度の高いセールスは期待できないと考えている表れです。年間で数千万円の投資を必要とするような商材や、国内の超大手企業を対象とした時は、フィールドセールスでなければ無理と判断しているのではないでしょうか。もしかすると、インサイドセールスはテレホンアポインターの新しい呼称、という程度にしか考えていない人もいるかもしれません。

1,000万円プレイヤーも夢ではないアメリカ

そうしたこともあり、日本のインサイドセールスの相対的な位置づけや待遇は高いとは言い難い状況にあります。インサイドセールスはフィールドセールスになるためのキャリアステップ、あるいはフィールドセールスの補佐といったポジションに設定にしているところも少なくないでしょう。また報酬も年収300万円台、トップセールスで500万円台といったところでしょうか。だから社会に出てホヤホヤの新卒やインターンに任せる、というようなことも起こっているのだと思います。

けれども、その認識は大きな誤りです。その理由を、アメリカのインサイドセールス事情を紹介しながら説明していきましょう。

まずは、アメリカのインサイドセールスの概況です。American Association of Inside Sales Professionals (AA-ISP)の情報によれば、次のような特徴があります(以下データは2019年)。

■セールス全体におけるインサイドセールスの割合は47.2%
■フィールドセールスが担う業務の45%はリモートによる営業活動である。つまりインサイドセールスと同様の仕事を行っており、継続傾向にある
■売り上げが年間500億ドル以上の企業ではフィールドセールスの割合は約70%だが、減少傾向にある

いかがでしょう? 日本とは随分と勝手が違いますね。インサイドセールスが一般的な職種として認識されており、かつてはフィールドセールスが担っていた役割をインサイドセールスに切り替えていることが分かります。

そして気になるのが待遇です。ただアメリカ本土は広いので、州ごとに違いがあるのも事実。そこで報酬調査サイトPay Scaleで、サンフランシスコを例に調べてみました。

インサイドセールスとして5年勤務している人たちの年俸の中央値(データを大きい〈または小さい〉順に並べたとき、ちょうど真ん中に来る値のこと)は、およそ65,000ドル、日本円でおよそ720万円です。下位10%の層でも500万円ももらえています。上位10%になると1,070万円。5年のキャリアで1,000万円の大台に載る可能性があるということです。

続いて、キャリア10年のインサイドセールスマネジャーの報酬も見てみましょう。報酬はグンと上がり、中央値で10,400ドル(約1,120万円)、下位10%でも75,000ドル(約810万円)、上位10%ともなると14,400ドル(約1,550万円)に! 日本企業では大手の部長クラスと同等でしょうか。

報酬を見ても分かるとおり、アメリカではインサイドセールスを確立されたポジションとしてみなしています。“フィールドセールスの補助”といった立場でもないですし、責任ある業務を任されているのです。

日米では期待される役割が異なる

どうして日本とアメリカでは、これだけインサイドセールスの処遇に差が出るのでしょう? ひとつは“インサイドセールス”という概念が、日本ではまだまだ普及途上ということが挙げられるでしょう。またジョブに対する考え方も異なります。日本ではセールスがエンジニアやデザイナーのように、専門職の位置づけとして一般的にはみなされていません。そうした認識の違いが、処遇にも表れているといえます。

とはいえ報酬に日本と2倍ほどの差が生じるのは、何より仕事の中身が違うからでしょう。少なくとも、“顧客の情報を聞き出しさえすればいい”“アポイントをとったら終わり”といったことではないはずです。

実際アメリカでは、顧客の経営や事業にまつわる課題を知り、その課題のボトルネックを抽出し、自社の商材をどう用いることで課題を解決できるのか、同時に顧客に対し商材への理解をどう深めていくのかを考えながら、ヒアリングと提案を繰り返し、顧客との関係性を深めていく役割をインサイドセールスが担っています。それも、ひたすら数を売ることで利益を上げる商材ではなく、限られたターゲットに対し最適な提案をし、顧客に応じた形で提供するような商材を扱っています。つまりエンタープライズを対象にした案件でも、インサイドセールスは十分プレゼンスを発揮することが可能だということです。

そもそもインサイドセールスは本来、高価で購入までの検討期間の長い商材にこそ効果を発揮するもの。電話やメールの頻度をコントロールしながら、じっくりと顧客との関係性を築いていくことができます。一方で相手の顔が見えない中でのやり取りになりますから、非常に高度なコミュニケーションスキルが要求されます。ですからアメリカでは、インサイドセールスの中できちんとキャリアパスが確立されているのでしょう。

今回はアメリカの事例を挙げながら、インサイドセールスに期待できる役割を解説しました。「アメリカだからできるんだ」と思う方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。むしろこれからを考えると、旧来からの日本のセールス慣習を変えていかなければならない時期に来ており、インサイドセールスは大きな可能性を秘めています。

本連載を通じ、ワンランク上のインサイドセールスチームづくりにお役立ていただければ幸いです。


関連記事

PAGE TOP