インサイドセールスとは【前編】

定義と向き・不向き、導入のポイント | インサイドセールスのメソッド

 

 

本記事では、いま注目を浴びているインサイドセールスを正しく理解し、有効に導入・活用していただくための方法をご説明します。

デジタルマーケティングとインサイドセールスは異なるものですが、一緒に導入され運用されていることが多く、合わせて語られることが多いように思います。本ドキュメントでは、デジタル・マーケティング (正確にいえば、マーケティング・コミュニケーションの一部) ではなく、インサイドセールスに特化して記載します。そして、インサイドセールスを適切に検討し、導入し、良い効果を得ることを目的としてガイドができればと考えています。

また、筆者の基本的な立ち位置を説明しておいた方が今後の内容を理解いただきやすくなると思います。筆者は、営業はマーケティングの一部であり、また、マーケティングは営業の一部である、というスタンスでいます。つまり、一般的に分けて理解されている営業活動とマーケティング活動 (マーケティング・コミュニケーション) は同じプロセスの中にあり、分けて考えてはおりません。そのため、営業戦略という言葉がしばしば出てきますが、「お客様の課題を解決するために製品やサービスを提供し、購入いただき、価値を感じてもらう」一連のプロセスを指しています。営業戦略 = いわゆる営業の活動というスタンスではありません。

少々長文ではありますが、お付き合いください。

目次

 

1. インサイドセールスは勘違いされている!?

インサイドセールスの定義・方法に、すべての人にとっての正解となるものはない

2019年からのコロナ禍の中で、企業向け (BtoB) の営業活動の大きな変化を感じている方も多いと思います。

顧客訪問タイプの営業活動が制約され、リモートでなければお客様との会話や提案活動がしにくくなりました。「緊急避難的」な変化とも言えるでしょう。しかしリモート営業への顧客理解も進み、受け入れられたこともあり (逆に、リモート環境でなければそもそも会議ができなかった)、わざわざ毎回会わなくても効率的に営業活動ができるよね、となってきました。

導入が「緊急避難的」であったため、深く考えることなくインサイドセールスを導入した、もしくはそれらしい本を購入して書かれていることをそのままやってみた、という皆さんも多かったと思います。

そのような本やWebの記事には、初めての人のために「定義」が書かれています。一般的に定義は知らないことを理解する上で非常に役立ちますが、抽象化したものを記載するため、具体的なことが分からない、もしくは、自分達には無理みたいに思ってしまいます。また、ある環境下では正解だが、異なる環境では正解にはならない、例えば、「自分の業種には向かない」、「自分の業務では導入できないな」など思ってしまいがちです。

そこで皆さんに正しく認識を持っていただくために、あえて書きます。

  • インサイドセールスの一般的な定義はない。書籍では「一般的にこういうケースが多い」という内容が大半 (当たり前です… 個別は特定の人以外には逆に役に立たなくなります)
  • 書籍やWebなどに、一般的に記述された定義や内容をそのまま導入しても失敗します
  • なぜなら、事業やビジネスモデル、販売している製品・サービス、その会社の成り立ち・歴史が異なるからです (成功事例として取り上げられるものは参考にはなるが、成功に至るまでの経路がその事例特有であり、同じ道をたどることはほとんど不可能)
  • 重要なことは、一般化された、もしくは事例として取り上げられるインサイドセールスのモデルや方法を参考に、皆さんにとってのインサイドセールスの定義を皆さん自身が作るべき、なのです
  • そしてインサイドセールスは営業成績を上げる魔法の杖ではない

ということです。上記の点を出発点に、この文書では様々な角度からインサイドセールスを考えてみます。

 

インサイドセールス、オンラインセールス、デジタルセールス、似たような名称がたくさん

最近様々な呼称が出てきて、「何が何だか分からん」という人も多くいらっしゃいます。同じような違うような、そして呼び方もたくさんあり、正しく理解することが難しいですね。頻繁に目にする名称は以下があります。

  • テレセールス
  • インサイドセールス
  • オンラインセールス
  • デジタルセールス
  • BDR (Business Development Rep.)
  • SDR (Sales Development Rep.)

といろいろ出てきています。また、テレマーケティング (テレマ) という言葉もあります。

これら様々な名称に神経質になる必要はありません。 名前が違うけれども、「活動」や「やっていること」は基本的に同じものと考えて良いと思います (ただし、後述しますが、名前は好きなように決めて良いと思いますが、目的に応じて活動目標や実施方法は異なってきます)。とはいえ、混乱しがちなので、こうした呼称が出てきた背景を少しご紹介したいと思います。

インサイドセールスは、元々はテレセールスと呼ばれていた時代がありました。テレセールスのテレは、TelephoneのTeleという人もいますし、遠隔という意味のTeleだ、という人もいます。いずれにしても、非対面での営業ということです。ご存じの方も多いと思いますが、国土の広い米国で実施されている営業手法です。もちろん技術が発達する前は、各地域にいる営業マンが担当地域の顧客を周って営業していた訳ですが、東京の様に同じビルにたくさんの顧客いる環境ではないため、いちいち車で移動したり、時には飛行機を利用して、ということが多く非効率でした。そのため、効率的である営業活動に電話を取り入れたという、国土の広いところならではの理由がありました。

以前は電話ぐらいしか遠隔でコミュニケーションする手段がなかったこともあり、テレセールスという名称で良かったのですが、近年ではメールやWeb、オンライン会議、ソーシャル (Business用SNS) など、コミュニケーションが多様化され、利用されるようになりました。そのため、電話だけではないという意味を込めて、お客様に訪問しない社内での営業、ということでインサイドセールスという名称に変化していきました。感覚的には2009年、2010年あたり頃かと思います。

その後、ここ数年で、働く場のイメージ向上やデジタル手法を駆使して営業活動を実施する背景から、デジタルセールスと呼ばれるようにもなっています。つまり、やっていることは同じだが、名称が変化してきていると捉えるのが良いかと思います。印象として、「デジタル」がある方が、イメージが良い、最先端の感じがする、ということだと思います。

一方、オンラインセールスという言葉は、顧客への訪問営業が難しく、オンラインで顧客と商談をするという活動から出た言葉で、その機能や役割ではなく、活動の呼び方のように思います。ただ、こうした活動を専任化してインサイドセールスと同様の機能・役割にオンラインセールスと呼んでいる場合もあり、ややこしいですね。この場合は、インサイドセールスやデジタルセールスと同じことを指していることになります。

ちなみにですが、お客様のところに訪問する営業のことをフィールドセールス (Field Sales) と呼ぶことが多いです。

記載してきた通り、様々な背景により呼称が変化したり、役割を指したり、活動のことを指したり様々です。ここでお伝えしたかったのは、名前や呼び方の定義を一生懸命理解するよりは、目的や機能・役割の多少の差異はあるものの、実施していることの大部分は同じものと捉えておけば十分である、ということです。

 

書籍に書いてある通りにやったら失敗する!?

書籍は非常に優れたモデルを提示して皆さんの参考にしてもらうことを目的に記述されています。しかし、ある特定の条件、環境があり、優れたモデルが成り立っていることが多いのです。何事もそうですが、すべての条件、すべての環境において優れているのは極めて希有です。

ここで何をお伝えしたいかというと、

  • 書籍に記載されている内容と同じことをしたら、マジックのように「おお、すごい」とうまくいく訳ではない
  • 書籍にあることを参考に、自社なりのやり方を模索する必要がある
  • 自社なりのやり方を考えたら、実行しながら自社に適切なプロセスやCapabilityを作り上げていくことが重要

ということです。

書籍は様々な方の経験や知識を通じ、抽象化されて記述されていますので非常に参考になることが多いですが、抽象化から具体的な活動は自ら考える必要があります。後でも記載しますが、一般的に企業やその事業が置かれている状況や課題、製品・サービスが異なっています。そのため、自社固有の具体的な方法が検討され、導入されるべきです。なので、書籍の内容と近しいことを導入しても全くうまくいかないことが多いのです。

 

目的、課題解決、何を変えるのか?

インサイドセールスの導入には自社なりの具体的な方法を考える必要があるとお伝えしました。では、なぜインサイドセールスが必要であるかまず考えてみましょう。様々な方々のお話を聞いていると、以下のような理由でインサイドセールスを導入される方が多いようです (特にサーベイや調査をしたわけではありません)。

  • マーケティング効果を上げるため
  • 営業成績が上がらないから一つの打ち手として
  • 新規顧客を獲得したいから

企業にある様々な課題に対する様々な打ち手として、インサイドセールスを検討されている方が多いと思います。最初の出発点は何でも良いと思いますが、もう少し踏み込んで考えてみることも重要です。「マーケティング効果を上げるため」を例にとると、これまで何故マーケティング効果が上がらなかったのかが重要で、それなりに突き詰めて行く必要があります。

また、その上で、以下を考える必要があります。

  • 営業戦略と照らし合わせて、インサイドセールスを導入して何を達成したいのか?、どの様な営業上課題を解決したいのか?

単に成果をあげないといけないから、ではなく、まずは営業戦略があり、営業戦略上の目的や課題は何なのか明確にしておく必要があります。インサイドセールスは手段であり、目的やゴールではないからです。

営業戦略というと営業部門のことかな、と思う方も多いですが、「経営戦略や事業戦略に基づく売上目標に向かって、顧客に価値を伝え、購入してもらい、利用して価値を感じていただくすべての活動、プロセス」を指します。部署や機能で言うと、

  • 営業部門
  • マーケティング部門 (厳密に言えば、マーケティング・コミュニケーション部門)
  • サポート部門やサービスデリバリー部門

が関係します。「ええっ」と思われる方もいると思いますが、顧客からお金をいただき、満足してもらうまでが重要です。後払いのビジネスモデルであれば、満足してもらわないとなかなかお客様からお金をもらえませんし、先払いでもリピート顧客は重要ですので、一連のプロセスで捉えるのは基本になります。

事業の目標・目的は「顧客を獲得・維持し、売上目標を達成すること」です (当たり前過ぎますね)。そして、売上目標をどのように達成するのか? が営業戦略となります。つまり、Howです。「とにかく顧客に当たろう」とか、「顧客との関係作りが大事だ」は最終的に大事な局面はありますが、戦略ではありません。

筆者が多く見てきた課題で多いのは、「売上達成、売上成長のために、顧客を増やす必要がある」です。つまり、売上 = 顧客単価×顧客数で言えば、顧客数を増やす必要があるということです。個人的な経験でも顧客単価を上げることはかなり厳しく、継続的に取引している既存顧客についてはコスト削減要請などが来て、売上が減少していくことが多いです。

顧客を増やすための手段は、営業人員を増やすことです。1人あたりの顧客数を割り出しておけば、人数でどれだけ顧客が増やせるのかは単純に算出でき、個人への目標も分かりやすい。しかし、制約はつきもので、この簡単なことがなかなか実現できないのです。その理由は、

  • 人手不足で採用ができない、営業職そのものが不人気職で、募集をしても応募がない
  • 単なるモノ売りでは売れなくなっており、それなりに高い営業スキルが必要
  • 高い営業スキルを持つ人は限られており、また増やすことが難しい
  • 優秀層になればなるほど転職する人も多く、人に依存することができなくなってきた

などなど、があります。

こうした課題に対して、人に依存しない分業型営業モデルを構築し、各営業プロセスで必要なスキルを向上させ、全体としてのCapabilityを向上させるということが必要となり、その一部としてインサイドセールスを導入する企業が多いと思います。そもそも、新しい企業では採用が難しいこともあり、最初から分業型で実施されるところも多いと思います。そして、営業プロセス全体で必要となる様々なスキルすべてを高次元にするには時間と労力がかかる一方、範囲を狭め、その中で標準的なスキルレベルまで引き上げることは、短期間でもできる可能性が高いでしょう。

分業型の点で最近の分かりやすい例では、米国 MBAのエンジェルス 大谷 翔平選手ではないかと思います。そもそも野球自体、極めて高い専門性を前提にしています。ピッチャーはひたすらピッチャー。バッターでたくさん打つことは全く期待されていない。ピッチャーであっても先発、中継ぎ、抑えなど、専門がある。その中で大谷選手は常識を壊したことがエポックメイキングなのだと思います。日本の営業マンは、大谷選手を前提に考えられているようにも思います。もちろん、コストの関係で多能工が必要な会社もあると思いますが、大谷選手を輩出できる可能性は極めて低いでしょう。企業活動ですので、スターを作るよりは、ある領域の得意分野を持つ人を並べて戦う方が遙かに勝てる可能性が高まります。

また、営業効率を上げなければならない課題もあると思います。一般的に、既存顧客を維持するよりも新規顧客を獲得する方がコストはかかります。都市伝説的に4倍かかると言われたりもします。とはいえ、営業の人員も限られ、簡単に新規顧客を獲得するリソースがなく、結局さほど獲得できず、「また今年もできなかったな」と振り返ることになります。それ以外にも、「とにかく顧客を訪問しよう」となり、持続的な活動にならなかったり、数打てば当たる的な活動で確率が悪くなったりして、結局「違うことを考えよう」となり、様々な活動を蓄積することなく、場当たり的に実施することを変えていく、ということをされている方も多いのではと思います。

このような課題に対してインサイドセールスを活用できるのであれば、非常に有効な手段になると考えています。しかし、後述する様に何でもインサイドセールスで解決できる訳ではないので、立てた戦略を柱に置き、解決したい課題を解決できるのか検討する必要があります。

話しが散らかったので少しまとめると、インサイドセールスを導入検討するにあたり、以下の3点が重要になります。

  • 経営戦略や事業戦略から営業における目標は何かを明確にする
  • 営業戦略を考える
  • 戦略の実行上どのような課題があるか、どのように解決していくか

当たり前の様な内容ですが、とても大事になります。インサイドセールスを導入することは、単に本を見て、同じようにすればうまくいくわけではないのです。

 

インサイドセールス導入の落とし穴

インサイドセールスの導入において失敗された、という皆さんも多いと思います。ただし、ここで言う失敗は、「目標が達成しなかった」ことではなく、「結果の前に活動そのものがうまく回らなかった」、「ほとんどPDCAができなかった」ことを意味しています。目標達成は、実行してすぐ達成できるのがベストですが、ほとんどありません。試行錯誤がつきものです。ですので、インサイドセールスがうまく機能しなかった、社内から必要ないと言われて終了したとか、それらの意味での失敗です。統計的ではありませんが、個人的に以下の2つの点が失敗の原因であることが多いと思います。

  • 戦略レベル、もしくは導入計画レベルでの失敗
  • 実行レベルでの失敗

これら2つについて詳細を見ていきましょう。

戦略レベル・導入計画レベルというのは、計画段階での失敗です。ここで多いのは、そもそも何のために導入するのかが不明瞭であったり、全体のプロセスが不明瞭で担当の人たちがどうして良いかわからず実行できなかったり、役割・目標が不明瞭で実行後の評価ができなかったり、といったケースです。

実行レベルでの失敗は、主に実行する人のモチベーションや人員配置に起因することが多いと思われます。これまでFS (Field Sales) だった方をインサイドセールスにコンバートするとモチベーションがダウンすることや、インサイドセールスのマネージャーは普通の営業マネージャーと同じと考え、営業マネージャーをアサインするものの、そもそも専門的な知識がないためうまくマネジメントができないことがあります。適切な活動ができないために成果も上がらないので、方法がダメなのだと結論づけ、「これは、やめよう」という話になります。

この様に、落とし穴となるのは、その活動方法ではなく、人や実行にまつわることです。仮に大枠の戦略が正しかったとしても、その実行のレベルでうまくいかないため、計画通りに行かないことはよくあります。

それを事前に理解し、回避することが重要です。自社の営業のマインドセット、プロセスなどをしっかり把握し、どのような形でインサイドセールス、分業型モデルなどを取り入れ変化させるか考えることが大事になります。個人的な経験では、変化させるにはこれまでの人とは全く異なるチームを作って実行していく (つまり、全く新しく組織を作る) ことでなければ、うまくいかないのではと思うことがよくあります。その理由は、短めに結論だけ記載しますが、「人が変わることは極めて難しい。」ということです。よほどのショックがなければ、変わろうと思っても変われない、不満だけ募り、「こんなやり方ではうまくいかない。前の方がよほど良かった」と言って、元に戻ろうとします。これは、組織文化や本能的なものから来ているため、極めてやっかいである、と認識して取り組むことが重要になります。

もちろん解決方法はいろいろありますが、企業文化や所属している人によって異なりますので、個別性が高く、一般的な正解はありません。重要なことは、そこには落とし穴があり、人の問題、文化の問題が大きく絡む、そしてすぐには成功しないので腰を据え、地道に変化させていく理解と気概が必要になります。戦略やプランは大事ですが、そこで終わらないようにすることが大事です。

 

2. インサイドセールスの向き・不向き

本章では、インサイドセールスの役割や活動が向いていること、不向きなことを考え、認識して、無理・無駄な導入を避けることを目的としています。とはいえ、結論から先に言えば、向いていないことは限られているので、多くのケースで、インサイドセールスは検討に値するものだと考えています。

 

そもそも営業とインサイドセールスの違いは何か?

向いていること、不向きなことを考える上で、まずそもそも一般的な営業とインサイドセールスの活動の違いや責任・役割の違いを考えてみたいと思います。

日本で一般的にBtoBの営業の役割で多いのは、野球でいえば、先発完投型営業が多いと思います。見込み顧客を見つけ、提案し、購入の決定をしてもらい、製品やサービスの提供・デリバリーまで責任を持ち、購入代金の回収 (債権回収) までを役割として持つような営業です。それ故、日々、様々な業務やすべきことがあり、非常に忙しい仕事と思います。そうした中、目の前のことに囚われ、中長期的にすべきことができない、既存顧客に工数が割かれ新規顧客の開拓ができないなど、悩みや解決したいができないことが多いと思います。

先ほどの例の野球でも、投手の先発完投型は減少し、特に米国MBAでは100球投げたら終わり、の様に徹底的に役割分担をしています。そうでなければ次元の高い競争に勝つことができないからです。ただし、大谷翔平さんの様な一部の例外はありますが、基本的にはプロはすべて分業になっています。サッカーしかり、ラグビーしかり、自分のポジションで最高のパフォーマンスを発揮することで全体が強くなるという形です。

分業型セールスモデルとなるインサイドセールスが向いていること、不向きなことを考えていきましょう。

 

インサイドセールスの不向きなこと

結論から先に言えば、ビジネス的に以下の3点はインサイドセールスに不向きなことが多いと思います。

  • ニッチビジネス (ターゲット顧客が少ない)
  • イノベーティブでこれまで誰も利用したことがないもの (CASMのイノベーターのステージ)、もしくは事業開発のフェーズの場合
  • 衰退市場の場合 (顧客を拡大するのではなく、顧客を絞って生き残る)

それぞれについて、少しだけ補足します。

ニッチビジネスの場合

ニッチビジネスは、ターゲット顧客が少ないビジネスです。他の競合企業がいない領域や一部の顧客価値を満たす様なビジネスです。つまり、顧客が少ないため、インサイドセールスが得意とする広範囲だが関係性は深くないレベルで顧客をカバーするよりは、少ない顧客にフォーカスし、満足度を向上させる策が得策です。こうしたケースでは、顧客単価が高いケースが多いため、Field Sales (通常の営業) の方が良いと考えられます。

イノベーティブな商品、イノベーターステージ、事業開発フェーズ

これらの場合、インサイドセールスが不可能というよりは不向きということです。そもそも、顧客すらその課題を認識していない状態や商品・サービスが理解されていない中で、インサイドセールスで電話やメール、その他の活動を実施しても、多くの方には理解されないため、成果が出ないことが多いと考えられます。

売る側も果たして多くの顧客のニーズに合致しているのかも分からない状況でもあります。通常の営業が対面でしっかりと説明し、理解してもらい、利用してもらい、顧客フィードバックをもらい製品・サービスをブラッシュアップしていくフェーズの場合は、同様の課題を持つ顧客に広くアプローチをするというインサイドセールスの形態はそれほど成果も出ないと考えられます。

衰退市場の場合

衰退市場はできる限り投資を減らし、市場が縮小していく中でも利益を上げていくために活動するフェーズにあります。「市場が縮小 = 顧客ニーズが縮小、または別のニーズへ変化している」状態のためたくさんの顧客にアプローチして提案活動をしてもそもそも成果が出にくい状況です。通常の営業活動であっても同様の状況ですので、言わずもがなでしょう。

では何故ここに挙げたかというと、衰退市場にもかかわらず、何かすればニーズを増やすことができると考え、広くアプローチをするためにインサイドセールスを検討してしまうケースがあるためです。会社のそれなりの規模の事業であると、衰退市場と決めるのにも勇気が必要です。銀塩フイルム市場の様に短期間で市場が消滅する様な状況は少なく、緩やかに市場が縮小するケースが多く、「まだ何かできる」となることが多いためと思われます。

インサイドセールスの導入検討は、上記の通り、企業や事業が置かれた状況に合わせて考える必要があります。不向きな事業の状況、製品・サービスの状況を取り上げましたが、向いている製品・サービスであってもタイミングやフェーズによって向いている時期、不向きな時期などもあります。ですので、とりあえず導入、ではなくいろいろな外部環境、内部環境を見ながら検討をすることが望ましいと言えます。

 

インサイドセールスの向いていること (もしくは不向きではないこと)

次に、インサイドセールスが向いていること、もしくは不向きでないことについてです。基本的には上記の不向きでないこと以外は適用できると考えています。ですので、この項目では、特にこういうビジネスや営業スタイルだと有効なことが多い点について記載したいと思います。

 様々ある中で、以下の2つのケースは特に有効だと感じています。

  • ターゲット顧客が多い場合
  • 顧客との継続的なリレーションが必要な場合

ターゲット顧客が多い場合

製品やサービスによっては、Market Potentialが全企業という場合があります。実際にはすべての顧客を獲得することはできませんが、どの企業でも採用してもらえる製品やサービスを取り扱っている場合です。分かりやすい例では、PC (パソコン) や金融サービス (融資や為替) があります。PCはどの企業でも利用されていますし、金融サービスもすべての企業にとって利用する可能性のあるものです。

このような製品・サービスを提供している場合、営業がすべてのお客様にアプローチするのは難しいので、チャネルを利用して顧客に届けることも多いでしょう。しかし売上拡大、市場シェア獲得のためには、これまで以上に顧客に直接アプローチをしていく必要があります。営業の人数に比例してアプローチできる顧客企業数が決まるため、顧客セグメンテーションをすることが多いと思いますが、売上成長を考えると、多くの新規顧客へアプローチをしていく必要があります。こうした広い顧客をカバーし、新規顧客も開拓していく必要がある場合は、インサイドセールスと営業の分業型セールスモデルは貢献できる要素が多いと考えています。

顧客との継続的な顧客リレーションシップが必要な場合

既存顧客との継続的な顧客リレーションシップは、営業の重要な役割の一つかと思います。しかし一方で、新規顧客を獲得するまでに継続的に顧客とコミュニケーションや情報提供をしなければならないケースの場合、営業は既存顧客で手一杯なことが多く、新しい顧客と1度や2度の商談はしても、案件にならなければ継続できない (しない) ため、新規顧客を獲得できないケースがあります。上記を含めて、対象顧客が広く、継続的なリレーションシップが必要な場合は、営業だけでなく、インサイドセールスを活用することで可能性が高くなります。ただし、インサイドセールスだけでは継続的なコミュニケーションが厳しいので、マーケティング部門と連携しながら顧客とのコミュニケーションを実施していく必要はあります。

 

適したビジネスモデルと気をつけるべきこと

これまで、インサイドセールス導入に関して向いている事業や営業手法、不向きなものを説明してきましたが、本章の最後に、異なる見方として、どのようなビジネスモデルがインサイドセールスの活用に適しているか考えてみたいと思います。これまでの経験から、インサイドセールスがはまり易いビジネスモデルは、「限界コストが低く、とにかく売りまくれることができる製品やサービス」と言えます。限界コスト(生産量を増加させたときに追加でかかる費用)が低いものは固定費が高いことが多いため、たくさん販売しないと損益分岐点を超えませんし、損益分岐点を超えると限界コストが低い分利益が大きく出るため、とにかくたくさんのお客様に購入、もしくは利用していただくことが重要になってきます。顧客カバーを広くできるインサイドセールスや分業型は適しています。

具体的な例としては、特にソフトウェアやクラウドサービスなどはこの傾向が強いです。これらは先行投資型であるため、その減価償却費用やデータセンターの運営など固定費が非常に高いですが、限界コストは小さいビジネスモデルとなります。BtoBではありませんが、医薬品、化粧品、書籍、楽曲なども同じようなビジネスモデルです。

また、導入に際して気をつけておくべき点としては、需給バランスです。例えばソフトウェアはダウンロードで販売できることもあり、在庫切れはありません。音楽でもオンラインであれば同様です。原価の小さいものであれば、大量に生産することもできます。しかし、コストが高く在庫を適正にコントロールする必要があるものは、たくさん需要を獲得できても供給ができないことがあります。最近の話では、半導体が不足していると言われており、半導体を利用したものは在庫がなく、ニーズがあっても提供できないことがあります。こうした需給のバランスを見て営業活動をする必要があるものは、インサイドセールスで顧客カバーを広げ、多くの案件を獲得することが無駄になる場合があるので、実行段階ではどうコントロールすべきか気をつけておくべきです。供給制約が起きた場合の活動方針なども考えておくと、受注をとるな、何もするなと、リソースが遊んでしまうことが無いと思います。とはいえ、昨今では、供給制約よりは需要不足の方がケースとしては多いので、大きなマイナス要素ではないでしょう。

インサイドセールスのメソッド
1. インサイドセールスとは
2. インサイドセールス導入のメリット
3. インサイドセールス導入のチェックポイント
4. インサイドセールスのアウトソーシング業者選びのポイント